first meet...and then after that ページ20
「Aちゃんと渋やんとの出会いから今まで、俺に全部話して」
いつかヤスくんに言われた言葉だけど、結局打ち明けることはなかった。
ので、ここで少しだけ、秘密の話を。
その日、慣れないリクルートスーツを着た私は、下ばかり見て歩いていた。
なんの目的意識もないまま、ただみんなと横並びに、せーので始めた就活。
案の定、すかすかのスポンジみたいな頭で挑んだ一次面接は、
「バリバリ一線で働いてます！」って顔をした素敵なおねえさんに あっさりとその考えのなさを見破られ、
“早くやりたいこと、見つかるといいね”
という 劇薬をオブラートで包んだみたいな嫌味を言われ、
無惨にもその幕を閉じた。
20年以上も生きてきて、私には、やりたいことも、誇れることも、なんにもない。
とぼとぼと歩く自分の足下をぼんやりと眺め、
コンクリートの橋を渡りながらふと目をやると、
眼下に、唐突に、釣り堀。
こんな都会の駅のそばに、なんでこんなものがあるんだろう。
初めて降り立った街にあった その異様な光景にちょっと驚いて、
私はしばらく、橋からその釣り堀を眺める。
みんな、のんびりしていて、いいな。
いろんな場所で戦って、ちょっと疲れた人たちなんだろうか。
平日の昼間、こんなところで時間をつぶしている人たちのドラマに少しだけ想いを馳せていたら、
なんだか私も、そこに加わってみたいような気持ちになった。
入り口でお金を払い、ぽそぽそとした粘土みたいなエサと釣り竿を渡され、
バイトのお兄さんに簡単にやり方を教えてもらって、適当な場所に腰をかける。
周りを見渡すと、みんな手慣れた様子でエサを交換したり、ウキの位置を調整したりしていて、
私のような、いかにも初心者が迷い込みました なんて風体の人は、ひとりもいなかった。
のんびりするために入ったはずなのに、そんな優雅な展開にはならず、
私はひとり、悪戦苦闘する。
見よう見まねでなんとなく釣り糸を垂らし、しばらくすると、いつの間にかエサはなくなっていて。
何度も釣り竿をあげてはエサを交換する、という流れを繰り返していたら、
手はべとべとになるし、いちいちスーツのスカートは上にずりあがるし、早くも嫌になってきた。
私は早々にエサの交換を諦め、ただ釣れる宛のない糸を垂らしつづけるという、
世捨て人の成れの果て、みたいなことになっていた。
first meet...and then after that→←あとがきと、お礼
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たまご(プロフ) - みかんさん» みかんさま、教えてくれてありがとうございます、探して数ページ読んでみましたがちょっと笑ってしまいました…。コメント欄閉じていらっしゃるので確信犯かな。。なんとも言えない気分です笑。 (2020年3月1日 20時) (
レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - くるみさん» くるみさん今更のお返事でごめんなさい、いつもありがとうございますー！また気が向いたらここも更新できたらいいな…（やるやる詐欺になりつつありますが）今後ともよろしくお願いします！ (2020年3月1日 20時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
みかん(プロフ) - このお話大好きで繰り返し読ませて頂いてます。。スノのほうで白夜というお話があるのですがとてもこのお話に激似です。。確認してみてください。 (2020年2月28日 13時) (レス) id: 9f4ab94ec1 (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - またこの2人に会えて嬉しかったです！会えて、っておかしいか？笑 渋谷さんの不器用な優しさが沁みますね〜。またこんな感じで細々と続く2人をずっとずっと見守っていきたいです。寒い冬に暖かいエピソードありがとうございました！ (2020年1月21日 1時) (レス) id: 64389dcac8 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - あくあさん» あくあさま、雪が降るといえばあくあさん、という感じだったのでコメントうれしいです。そうですね、彼らは何気ない日常のワンシーンを覗き見するみたいな感じで描きたかったので、そう感じてくださったなら本当に嬉しいです。ありがとうございます！ (2020年1月20日 23時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2018年1月11日 0時
