さよならのシーン【緑】４ ページ44
…彼女のことを最初に女として意識したんは、いつやったんやろうと思う
彼女は最悪の初対面だった、ごめんと
事あるごとに謝り続けとったけど
何様やって感じやけど、幼いながらに必死に食らいついて生きてる感じが、可愛いなあと思ったことを覚えていた
彼女は相変わらず酒飲みやったけど
自分を見失うような飲み方はその後俺ん前では見せへんかった
…いつもん店でたまたま一緒んなって 何人かで飲むことがあってもまあ、そん場限りのことやったし
連絡先すら交換せんまま、しばらく時が過ぎて
彼女はみんながアホな話をして笑っとる隅っこでよく最近観た映画や、“天才の定義”なんかについて話していた
あの頃はまだみんな30前後で、必死にそれぞれ居場所を作ろうと足掻いている最中で
俺はまあ、めまぐるしく過ぎ去る日々があまりに濃密やったし
彼女は彼女で、何かを掴んだり手放したりしながら同じだけの月日を過ごして
…そんである時たまたま、店を出るタイミングが一緒やった。
「うっわ雨降っとる…」
「傘持ってる？ タクシー拾えるとこまで送っていこうか？ あ、まずいか…お店に傘あるか聞いてくるね」
深夜２時、地下の店からの階段を上がって見た冬の路地裏は人の気配を一切排除しとったから。
…あと正直俺は、窮屈な生活に嫌気が差しとる頃やったゆうのもあったんやと思うけど
「…いやええわぁ、そこまでやし入れてってもらってもええ？」
「…大丈夫？」
「万が一撮られたところで別のタクシー乗ってまえばせいぜい“大倉忠義お持ち帰り失敗の夜”やろぉ。はは…今更そんなん屁でもないわ」
「…いや、やっぱやめとこ、傘もらってくる！」
たちまち踵を返し
たたたたた、と彼女は登ってきた暗い階段を、勢いよくまた下っていく
からん、とドアベルの音を立て店ん中へ吸い込まれていく後ろ姿
「ーー…」
…酒に任せて自覚も危機感も捨てた俺はその態度を、
真面目やなあって頼もしく思って
…同時に、ちょっとだけ、面白くなくて。
人ひとり通るんが精一杯の幅の急な階段、真ん中まで降りて、
そこにどかっと座り込む。
「…あったよ！ 傘の予備、ビニ傘だけどいい？」
また、からん、とドアが鳴り
たたたたた、と音を立てて駆け上がってくる彼女は俺にそれを差し出す
「…どうしたの？」
無言で
膝に肘ついた手に顎を乗せて待っとった俺を、彼女は下から覗き込んだ。
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たまご(プロフ) - くりくりさん» くりくり様、お返事遅くなってごめんなさい！コメントありがとうございました！ラスト駆け足になってしまいましたが、少しでも気に入っていただけたなら幸せです。今後ともよろしくお願いします！ (2019年9月5日 4時) (
レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - まっきーさん» まっきー様、いつもありがとうございます！緑さんのお話、書いた当初は自信なかったんですが、今では結構好きなお話です。7人揃う日まで気長にお付き合い頂けると嬉しいです…！ (2019年9月5日 4時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
くりくり(プロフ) - 初恋ごっこ、読み終えて胸が苦しくて愛おしい気持ちが溢れて一言お伝えせずにいられなくなりました。更新が待ち遠しいです！ (2019年8月25日 15時) (レス) id: f2b0afbb33 (このIDを非表示/違反報告)
まっきー(プロフ) - どのお話も素敵でした！とくに大倉君のお話が堪らなく好きです(*´∇｀*)最高です！！お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています！！ (2019年8月15日 20時) (レス) id: 76f56a80a0 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ひよりんさん» ひよりんさん！コメントありがとうございます、まさかひよりんさんに読んでいただける&コメントまでいただけるとは思わず二度見しました…！うれしいですありがとうございます、今後とも何卒よろしくお願いします…｡ﾟ(ﾟ´ω`ﾟ)ﾟ｡ (2019年8月15日 16時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2018年4月30日 14時
