さよならのシーン【緑】３ ページ43
それがわかって、自分自身がまた苦しくなって
初対面の人に、最低な態度
自分が情けなくて、目頭が熱くなるーー…
「ふうん…ほんならもう努力すんの辞めたらええんやないの？」
…彼はとてものんびりとした声で、
雨が降ったら傘を差せばいいとでも言うように
至極簡単なことのように、そう言った。
「それは…嫌です」
「なんで？ 辞めたら色々諦めついて楽やと思うけどなあ」
みるみる減っていくミックスナッツ
白いお皿はその身体を暗い照明の中晒していく
ぼりぼりと呑気に響く咥内の音が耳について…
アツシくんは呆れたようにそっぽを向き黙ってタバコを吸っていた
もう、味もわかりやしないお酒の入ったグラスを私はぎゅっと握り俯いて
「…辞めたら」
「…うん」
「…辞めたら、自分が嫌いになるから」
…絞り出した言葉が、私の唯一の真実だった。
…
その時、はは、と柔らかい声が
…それは嘲笑とも呆れ笑いとも違った温度の
拍子抜けするほどの優しい音色
思わず顔を上げると、真面目な顔をした彼が
真っ直ぐに、こちらを見ていた
「…やったら信じたやり方でとりあえずやり続ける以外ないんやない？ 自分のためなんやし」
「ーー…」
「…まあでも、酒と愚痴は必要やと思うけど。俺やって今日飲まんとやってられへんもん、なあアツシくん聞いてやぁ〜！」
そう言って彼は急に顔を崩して笑って
不機嫌そうなアツシくんの肩に手を回し強引に揺さぶった
空気を、力技でほぐして
釣られてアツシくんは“なんだよ、なんかあった？”と笑った
ーー…それが、
私と彼の出会いだった。
同い年である彼が私なんかよりずっと幼い頃から、ずっと報われるとは限らない努力を積み重ねてきたことや
遣る瀬無さや憤りを隠して笑ってきたことを、私は後から知った。
…恋では、なかった
最初は、ただ、私は彼を尊敬していた。
「…大倉くんはすごいね」
「はは…自分のかっこ悪いとこは自分が一番よう知っとるからなあ」
「そうなの？」
「んー？ みんなそうなんやない？」
「…そうだね」
比較的彼のよく来る曜日に私はなるべくお店に顔を出し
たまに何人かで飲む機会がある度 隅っこでそんな会話をして
…この人のかっこ悪いところは、一体どこにあるんだろうかと訝しみながら
最初に一番かっこ悪い部分を見せていた私はその後も安心して、
素直に、彼を見上げ続けていた
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 933人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たまご(プロフ) - くりくりさん» くりくり様、お返事遅くなってごめんなさい！コメントありがとうございました！ラスト駆け足になってしまいましたが、少しでも気に入っていただけたなら幸せです。今後ともよろしくお願いします！ (2019年9月5日 4時) (
レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - まっきーさん» まっきー様、いつもありがとうございます！緑さんのお話、書いた当初は自信なかったんですが、今では結構好きなお話です。7人揃う日まで気長にお付き合い頂けると嬉しいです…！ (2019年9月5日 4時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
くりくり(プロフ) - 初恋ごっこ、読み終えて胸が苦しくて愛おしい気持ちが溢れて一言お伝えせずにいられなくなりました。更新が待ち遠しいです！ (2019年8月25日 15時) (レス) id: f2b0afbb33 (このIDを非表示/違反報告)
まっきー(プロフ) - どのお話も素敵でした！とくに大倉君のお話が堪らなく好きです(*´∇｀*)最高です！！お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています！！ (2019年8月15日 20時) (レス) id: 76f56a80a0 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ひよりんさん» ひよりんさん！コメントありがとうございます、まさかひよりんさんに読んでいただける&コメントまでいただけるとは思わず二度見しました…！うれしいですありがとうございます、今後とも何卒よろしくお願いします…｡ﾟ(ﾟ´ω`ﾟ)ﾟ｡ (2019年8月15日 16時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たまご
| 作成日時：2018年4月30日 14時
