さよならのシーン【緑】２ ページ42
彼と初めて出会ったのは、6年前の春のことだった。
まだ駆け出しの脚本家だった私は、師匠である人が彼の名前で受けた脚本の手伝いに忙殺されていて
下調べもプロット書きも、プロデューサーや事務所から相次ぐリテイクの依頼に応えることだって
実際は殆ど私がやっていたのに。
「…結局政治力がある器用な人が生き残る世界なんですよ」
「めんどくさ… 誰だって下積み時代はあるもんじゃん？」
「…クレジットもされない 実績にもならない仕事をして私は老いて死んでいくんです」
…その時、べろんべろんに酔っていた私の最低な愚痴を聞いてもらっていたのはアツシくんという人で
なんか、デザインをしたグッズがあそこのセレクトショップに置かれているらしいとか、ふんわりした話はよく聞くけれど、実際何をしてご飯を食べているのかよくわからない人だった。
「あれぇ、アツシくんやん、どないしたん」
…そしてアツシくんはそうした人の御多分に洩れず、やたら顔の広い人で
「あれ偶然、何、待ち合わせ？ 来るまでここ座れば？」
「や、彼女やないの？」
「俺32年間彼女いないもーん」
「ははは、それむしろ不誠実なだけやろぉ」
立ち上がったアツシくん、そのまま頭上で交わされる軽くて湿度のない会話
暗いお店、逆光の中の二人はやたら遠く感じられて
卑屈さを持て余した私は憮然とした顔で肘をテーブルにつき、グラスを傾け続けていた。
「初めまして、えーと、何ちゃんやった？」
「…Aです」
…その人はそのまま、私の斜向かいに座り
「お前感じ悪… ごめんな、こいつ今日なんか溜まってるらしいわ」
「はは、ええよ、なんの話してたん？」
置いてあったミックスナッツを勝手に摘みながら私にそう問いかける。
軽薄そうな髪型、左耳に空いたピアス、
見覚えのある綺麗な顔立ちに 甘ったるい関西弁…
…ああ、今の自分からは最も遠い人だと
「…いくら努力しても報われない時、心が腐りそうになる現象をお酒と愚痴ること以外で解消する方法はあるのかについて、です」
挑発的な言い方だった
空気がひりつくのが酔った頭でもわかった
アツシくんが止めようとするのを、彼は“ええから”と言って制し
「ーー…」
…こんな人に、わかってたまるかって。
ほんとは、最低で傲慢で子どもな私は、アツシくんにも同じことを思いながら話していた
聞いてくれる相手の時間と感情を拘束していることに感謝すらせずーー…
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たまご(プロフ) - くりくりさん» くりくり様、お返事遅くなってごめんなさい！コメントありがとうございました！ラスト駆け足になってしまいましたが、少しでも気に入っていただけたなら幸せです。今後ともよろしくお願いします！ (2019年9月5日 4時) (
レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - まっきーさん» まっきー様、いつもありがとうございます！緑さんのお話、書いた当初は自信なかったんですが、今では結構好きなお話です。7人揃う日まで気長にお付き合い頂けると嬉しいです…！ (2019年9月5日 4時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
くりくり(プロフ) - 初恋ごっこ、読み終えて胸が苦しくて愛おしい気持ちが溢れて一言お伝えせずにいられなくなりました。更新が待ち遠しいです！ (2019年8月25日 15時) (レス) id: f2b0afbb33 (このIDを非表示/違反報告)
まっきー(プロフ) - どのお話も素敵でした！とくに大倉君のお話が堪らなく好きです(*´∇｀*)最高です！！お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています！！ (2019年8月15日 20時) (レス) id: 76f56a80a0 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ひよりんさん» ひよりんさん！コメントありがとうございます、まさかひよりんさんに読んでいただける&コメントまでいただけるとは思わず二度見しました…！うれしいですありがとうございます、今後とも何卒よろしくお願いします…｡ﾟ(ﾟ´ω`ﾟ)ﾟ｡ (2019年8月15日 16時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2018年4月30日 14時
