国境を越える旅【橙】５ ページ5
私たちは二人して、旅の空気を引きずっていたから。
「個室？」
「ビジネスで個室なんはこの航空会社だけみたいですけど、フルフラットゆうんですかね、座席もべたーっと平らになるんですよ」
「…いいな、見てみたい」
お酒もちょっと飲んでいたから。
どちらからともなく、たぶん本当は二人してすごくどきどきしながら…
「…今やったらたぶん、こっそり来れば」
「…二人、入れます？」
「…先戻ってフラットにしとくんで、最悪毛布かぶっとけば上から見てもバレへんと思います」
そう言って彼はカーテンを、
あのカーテンを開けてその先へ消えていく
私は深呼吸をしてしばらく時間を置いて
ーー…普段だったら絶対に越えない、壁を
「ーーー…」
カーテンを開けて暗い機内を歩く、3Dを探してひたひたと進む、ビジネス特有の静けさと緊張感、よかったCAさんはちょうど見当たらなくてーー…
立ち止まりゆっくりと扉を開けると
寝転んだ彼が
こちらを見上げていて
……
何も言わず静かに、手前のテーブルの下に滑り込んで座る、すぐに扉を閉める……
「……」
私たちは目を合わせて、お互い唇に人差し指を立てていたずらっ子のように笑いをこらえながら
「せま…」
声には出さず、口だけを動かして伝える
それに彼は目を細めて笑う えくぼが浮かぶ
寝転がる彼、体育座りする私、
床に座っていると、静かに振動を感じる
きっと多少声を出しても、周囲には聴こえないだろうけど
小さな頃かくれんぼした時にうっかり同じ押し入れに入ってしまったみたいに
扉の向こうを鬼が気づかず通り過ぎる、その甘やかなスリルを共有しあうみたいに
私たちは過剰なほどに、なんだか声を潜めていたくて
「…ビジネス、初めて入りました」
声にならない声で、囁くように言う私の言葉を捉えようと
寝転んだ彼は身体をよじり、私に近づいて耳を寄せ
「…僕も、二人では初めて入りましたわ」
今度は彼が囁くから、私も彼の口に耳を寄せるーー…
仕事中もこのくらいの距離感は日常茶飯事で
なのに
悪いことをしているみたいな
実際、悪いことを、してるから……
彼のはずした黒いメガネが、私の目の前のテーブルの上に置かれていた。
「…いいな、寝転がれて、私の席と交換しません？」
囁く
「それはいややからーー…」
囁く
「ーー…試しにここ…寝転んでみます？」
彼が、窮屈そうに縮こまって、スペースを空けた。
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たまご(プロフ) - くりくりさん» くりくり様、お返事遅くなってごめんなさい！コメントありがとうございました！ラスト駆け足になってしまいましたが、少しでも気に入っていただけたなら幸せです。今後ともよろしくお願いします！ (2019年9月5日 4時) (
レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - まっきーさん» まっきー様、いつもありがとうございます！緑さんのお話、書いた当初は自信なかったんですが、今では結構好きなお話です。7人揃う日まで気長にお付き合い頂けると嬉しいです…！ (2019年9月5日 4時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
くりくり(プロフ) - 初恋ごっこ、読み終えて胸が苦しくて愛おしい気持ちが溢れて一言お伝えせずにいられなくなりました。更新が待ち遠しいです！ (2019年8月25日 15時) (レス) id: f2b0afbb33 (このIDを非表示/違反報告)
まっきー(プロフ) - どのお話も素敵でした！とくに大倉君のお話が堪らなく好きです(*´∇｀*)最高です！！お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています！！ (2019年8月15日 20時) (レス) id: 76f56a80a0 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ひよりんさん» ひよりんさん！コメントありがとうございます、まさかひよりんさんに読んでいただける&コメントまでいただけるとは思わず二度見しました…！うれしいですありがとうございます、今後とも何卒よろしくお願いします…｡ﾟ(ﾟ´ω`ﾟ)ﾟ｡ (2019年8月15日 16時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2018年4月30日 14時
