初恋ごっこ【橙】２ ページ29
「Aと申します、頂戴します」
その日 私は月に２度のいつもの出張で東京へ来ていた。
新規取引先への挨拶、もうすっかり板についた名刺交換の果てに
「…あれ？」
「……」
「…Aさんて、ひょっとして昔京都にいらっしゃいました…？」
「…ミエちゃん？」
声をかけられ気づく。
「えー！ 嘘！ ほんまなん！？」
「何やってんのミエちゃんー！」
周りの大人たちを置いてけぼりに、私たちは感嘆の声を上げ笑い合う。
彼女は小学校5-6年生の頃の同級生で、
そう、京都に居た頃、家が近所でいつも放課後は彼女の家で漫画を読んでいたーー…
忘れゆく数々の同級生の中でも、忘れられないうちの一人
懐かしい京都弁を全開にして笑うその顔は変わっていなくて
…同行した先輩の咳払いで私たちは“取引先への挨拶”のテンションへと慌てて戻る
白々しい敬語のやりとり、それが終わり帰り際
「こっちにおる同級生たちとたまに飲むねんけどなあ、今度Aちゃんも来れたりせえへんかな」
彼女がこっそりと囁くーー…
「名刺のアドレスに連絡する…あ、マルも来るで、知っとるやろ？」
いたずらっぽく微笑む彼女の長い黒髪が揺れたーー…
…
彼
…私の忘れられない男の子が、テレビに出ている彼だと気づいたのは
たった3年前のことだった。
たまたまつけた生放送の番組、そこに出た名前のテロップに一瞬 時が止まり
…笑ってる
彼は明るくふざけて笑っていて
よかった、そうか彼は今笑っているんだと
ずいぶん遠い場所にいるけれど、二度と会うことはないだろうけど、
そうか、よかったなってそれ以来見かけるたび、思っていた時にーー…
“AA様
いつもお世話になっております。先日は弊社までご足労いただきーー…”
定型文から始まる、そのメールの最後
“追伸、7月6日の土曜の夜、もし来れたら是非”
マウスをスクロールする指が、その一文で宙に浮いた。
…
そして私は今、のこのこと東京に赴き
いつも出張で使う簡素なビジネスホテルにチェックインしてから、白いワンピースに着替え僅かばかりの化粧を施し
お店は日比谷公園のそば、一流ホテルの2階にある中華の個室で
その24階建ての煌びやかな建物を見上げるように、道端で立ち尽くしていた。
…鞄の中に、あの日拾ったねずみ色の石を隠しながら。
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たまご(プロフ) - くりくりさん» くりくり様、お返事遅くなってごめんなさい！コメントありがとうございました！ラスト駆け足になってしまいましたが、少しでも気に入っていただけたなら幸せです。今後ともよろしくお願いします！ (2019年9月5日 4時) (
レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - まっきーさん» まっきー様、いつもありがとうございます！緑さんのお話、書いた当初は自信なかったんですが、今では結構好きなお話です。7人揃う日まで気長にお付き合い頂けると嬉しいです…！ (2019年9月5日 4時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
くりくり(プロフ) - 初恋ごっこ、読み終えて胸が苦しくて愛おしい気持ちが溢れて一言お伝えせずにいられなくなりました。更新が待ち遠しいです！ (2019年8月25日 15時) (レス) id: f2b0afbb33 (このIDを非表示/違反報告)
まっきー(プロフ) - どのお話も素敵でした！とくに大倉君のお話が堪らなく好きです(*´∇｀*)最高です！！お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています！！ (2019年8月15日 20時) (レス) id: 76f56a80a0 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ひよりんさん» ひよりんさん！コメントありがとうございます、まさかひよりんさんに読んでいただける&コメントまでいただけるとは思わず二度見しました…！うれしいですありがとうございます、今後とも何卒よろしくお願いします…｡ﾟ(ﾟ´ω`ﾟ)ﾟ｡ (2019年8月15日 16時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2018年4月30日 14時
