遠ざかる駅【黒】 ページ41
…新幹線は、思いの外ガラガラやった。
7号車6列D,E席
窓際にAを座らせ、二人の鞄を荷台に載せる。
「コート脱ぐか？」
「ううん…」
…Aの顔はずっと消え入りそうに青白くて
寒いんかなと、俺は巻いとったあのマフラーを彼女の首にぐるぐると巻きつけた。
まばらな客席
斜め後ろで疲れたサラリーマンが、一人で缶ビールを開けている。
ーー…間も無く発車します。
車掌さんのアナウンスが流れて俺はやたら背筋伸ばして座席に座り直す。
右手で、彼女の左手をぎゅっと握った。
ジリリリリリリリリ
発車のベルがしつこくホームに鳴り響く
乗り遅れそうな人はおらんかと
…もう、ええから早よ出てくれんかなと
思いながら、
俺はまたぎゅっと握る手に力を込めるーー…
ーー…
ぷしゅー、
と音がして
がたん、
ドアが、閉まるんがわかった。
「ーー…」
…ゆっくりと滑るように動き出す車体に
逃げださんかった自分に安心して
俺はようやく、その手を緩めたんやった。
…
彼女の横顔越しに、夜の街の姿が見えていた。
みるみる遠ざかるネオン、
もう5分もすれば街灯の数も減っていくことを俺は知っとるから。
ーー…もう大丈夫やろうとAの顔に視線を移すと、
彼女がそれに気付いて、こちらを見る…
「…侯隆」
「ん…？ どした？ 体調悪い？」
「…ううん。お腹減っちゃった」
…そう言って、恥ずかしそうに笑う。
「ああ…そっか、弁当とか買えばよかったな」
「新横浜のホームで買えないかな、崎陽軒のシウマイのお弁当、食べたいな」
彼女がそんなワガママ言うんは、珍しくて。
…俺はそれが、うれしくて。
…Aもようやく緊張の糸がほぐれたんやと思った。
「はは、ええで、一瞬降りて買うてきたる」
「うん…ありがと」
…言うても停車時間なんて1、2分やろうし
俺は彼女にええとこ見せたると
札束直に手に握って、停車前から降りる準備をすべくドアの側へと向かう。
「ーー…」
自動ドアが開く直前振り返り 席に座っとるAを見ると、
こっちに気付いて笑って、
小さく手を振った
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 511人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆき姉(プロフ) - 年末年始と忙しくて気になっていたけど我慢してやっと、読めました！あここで名前が？って予想外だったので戸惑った笑ほんまのほんま、の感想は完結した時に。でもでもだけど。やっぱりたまごさんのかくeightが好きです。 (2021年1月7日 18時) (
レス) id: f0721a3442 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - はるさん» はるさん、コメントありがとうございます、とても嬉しいです。ちょうど「CHANCE」が出たころっぽかったのでそのイメージでしたが、マドモアゼルココもいいですね！引き続き見守っていただけると嬉しいです。 (2020年12月17日 3時) (レス) id: 0669d21b3c (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 鳥肉なし、愛がたっぷりのオムライスがリアルっぽくて切な愛おしいです。シャネルの香水はマドモアゼルココが大好きなので、それをイメージしました。 (2020年12月15日 11時) (レス) id: c38ac67a9b (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - kukuさん» kukuさんコメントありがとうございます、嬉しいです！ほんと励まされます…！どうか引き続き楽しんでいただけますように！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぽてとさん» お返事ありがとうございました！ようやくご自身のお名前出てきたと思うので、どうか引き続きお楽しみいただけますように…！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たまご
| 作成日時：2020年12月4日 16時
