師走の雑踏【黒】 ページ40
…うちから品川駅は、そんなに遠くはなかった。
俺たちは急いで鞄に最低限必要な荷物だけ詰め込んで、タクシーを呼んだ。
「…A、身体大丈夫か？」
「侯隆…」
Aはずっと不安そうな顔をしとって
後部座席、俺は彼女の左手を握った。
…外見ると、街中は金色のイルミネーションで溢れとって
俺はクリスマスが近いんやなってそん時今更気が付く。
“じゃあこの冷めた鶏肉なしのオムライスを美味しく食べてリポートしてください”
…初めて一緒に過ごしたクリスマスは、もう遠い記憶になっていた
あの頃は、
何にも持ってなくても、ただお互いが一緒におるだけで幸せやったのに。
「…A」
「ん…」
「…大丈夫やから。昔働いとった現場の親方が、ダメやったらいつでも戻ってこい言うてくれたん、話したことあったやろ」
「うん…」
「やから大丈夫やで。…俺はお前がおったらなんもいらんねん」
…喧騒の街を抜けて車は走る
計画というにはあまりに無鉄砲なその言葉を補うみたいに
俺たちはずっと手を握り合っていた
ーー…
品川駅に着いたんは、家を出てから15分後のことやった
切符売り場に向かう俺に、Aは“トイレに行ってくるね”と、声をかけて消えた
「ーー…」
ひとりになって
券売機に並ぶ
20時37分発 のぞみ
もう何度往復したんやろう、この街とあの街を
切符を買って振り返ると、師走の駅
たくさんの人が行き来しているーー…
“…なあ横山くん、俺らほんまに売れるんかな”
“…あったり前やろ、ようやく闘える場所まで来たんやから”
“…ほんまかなあ”
“絶対売れたる”
「ーー…」
…どうしても、今日中にこの街を出たかったんは
明日またあいつらに会うたら、決心が鈍ってしまいそうやったからやった
…ごめん
ほんまにごめんと、謝る資格さえ
ここを去ると俺には、もうなくなるーー…
「ーー…A」
「…ごめん、遅くなって」
「ギリギリやけど大丈夫や、行こうか」
…やけどそん時、青白い顔したAが俺んとこに戻ってきたから。
…こいつは、俺がおらんとあかんねん
あいつらは、
きっと大丈夫やからーー…
ーー…振り払うように首を振って
俺は彼女の荷物を持ち、その小さな手をとる
もう二度と振り返らんようにしながら、ホームへと繋がるエスカレーターを降りた
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 511人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「関ジャニ∞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆき姉(プロフ) - 年末年始と忙しくて気になっていたけど我慢してやっと、読めました！あここで名前が？って予想外だったので戸惑った笑ほんまのほんま、の感想は完結した時に。でもでもだけど。やっぱりたまごさんのかくeightが好きです。 (2021年1月7日 18時) (
レス) id: f0721a3442 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - はるさん» はるさん、コメントありがとうございます、とても嬉しいです。ちょうど「CHANCE」が出たころっぽかったのでそのイメージでしたが、マドモアゼルココもいいですね！引き続き見守っていただけると嬉しいです。 (2020年12月17日 3時) (レス) id: 0669d21b3c (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 鳥肉なし、愛がたっぷりのオムライスがリアルっぽくて切な愛おしいです。シャネルの香水はマドモアゼルココが大好きなので、それをイメージしました。 (2020年12月15日 11時) (レス) id: c38ac67a9b (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - kukuさん» kukuさんコメントありがとうございます、嬉しいです！ほんと励まされます…！どうか引き続き楽しんでいただけますように！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぽてとさん» お返事ありがとうございました！ようやくご自身のお名前出てきたと思うので、どうか引き続きお楽しみいただけますように…！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たまご
| 作成日時：2020年12月4日 16時
