走り出した決意【黒】 ページ39
「ーー…無理やない」
俺は電話を切る
そんまま夜道を走り出す
落ち葉を踏んで足が滑る 息が上がる
…A、
“無理だよーー…”
…A、
俺は勉強なんて全然でけへんし…
歌やって下手やし、演技もよう分からんし、楽器やってできひんし
要領悪いし得意なことひとっつもなくて
不器用やからせめてーー…
「A！」
「ーー…」
…息切らしてアパートん部屋に入ると、
彼女は電気もつけんと窓際に小さくなって座っていた
「…ただいま」
「ーー…」
「…ごめん、遅くなって」
…いつかあの場所で、彼女は俺の隣に座って
幻を見るように、
あの夢を俺に教えてくれたんや…
「ーー…」
乾いた口ん中、鉄の味がする…
肩にかろうじてひっかかっとったマフラーを巻き直しながら
月明かりだけの暗い部屋、俺はゆっくりと彼女に歩み寄る
折りたたんだ膝に顔を伏せたままの彼女の肩に
そっと触れた…
「…どうやった？ 病院…」
…彼女は、
「ーー…っ、」
自分を抱えたまま肩を揺らして泣き始めるーー…
「そっか…」
「ーー…」
「できてたってことやんな…？」
「ーー…っ、」
「ーー…」
…俺はふぅーっっと
目ぇ瞑り、大きく息を吐きながら、彼女を抱きしめた
小さくて、細い身体やった。
両手で
髪の毛と震える背中をゆっくりと撫でる。
「ーー…」
…俺が守ってやらんと、こいつはほんまは弱いから。
世界で俺だけが、それを知っとるんやから…
…不器用な男に、
できることなんて最初っからひとつやった
いくつもん夢を追うなんて俺にはでけへんかったのに
束の間、夢を、見てしまった
身分不相応な夢をーー…
「…A」
…そん時の俺は、妙に落ち着いとって
暗い部屋に響く秒針の音まで、はっきりと聴こえていた
目を開ける
…壁にかかった古い時計を見る
19時41分、
まだ、間に合うーー…
「行こう」
…そう言うと、Aはようやくぐしゃぐしゃの顔をあげた
…久しぶりに、彼女は俺を見た。
その顔は、可愛くて愛しくて、懐かしくて…
…大丈夫やから、
俺が、守ってやるから。
「っ…どこにーー…？」
「…大阪」
ーー…そして俺たちの駆け落ちが、始まった。
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ゆき姉(プロフ) - 年末年始と忙しくて気になっていたけど我慢してやっと、読めました！あここで名前が？って予想外だったので戸惑った笑ほんまのほんま、の感想は完結した時に。でもでもだけど。やっぱりたまごさんのかくeightが好きです。 (2021年1月7日 18時) (
レス) id: f0721a3442 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - はるさん» はるさん、コメントありがとうございます、とても嬉しいです。ちょうど「CHANCE」が出たころっぽかったのでそのイメージでしたが、マドモアゼルココもいいですね！引き続き見守っていただけると嬉しいです。 (2020年12月17日 3時) (レス) id: 0669d21b3c (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 鳥肉なし、愛がたっぷりのオムライスがリアルっぽくて切な愛おしいです。シャネルの香水はマドモアゼルココが大好きなので、それをイメージしました。 (2020年12月15日 11時) (レス) id: c38ac67a9b (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - kukuさん» kukuさんコメントありがとうございます、嬉しいです！ほんと励まされます…！どうか引き続き楽しんでいただけますように！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぽてとさん» お返事ありがとうございました！ようやくご自身のお名前出てきたと思うので、どうか引き続きお楽しみいただけますように…！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2020年12月4日 16時
