地上32階の恋【黒】

不戦敗の男たち１【黒】 ページ30

「ヨコ、最近女できたんやろ？ 年上の」


「ん？ ああ、まあ」


「えっろ、やりまくってんねやろお前」


そん頃の俺らは普通にプライベートの話もしとったし

…まあ仕事の話したら暗くなるいうのがお互いわかってたからやろうけど。


そう言って俺ん腰後ろからはたいたすばるも、カリッカリの身体で、持て余した自分の衝動に苛立っていた頃やった。


“やりまくってんねやろ”


そりゃあまあ…年頃やから。

否定すらせんで “っさいわ” とニヤついとる俺に、すばるが“きっしょ”言うて笑う。


…うちのアパートは壁も床も薄いから、してる時の声がうるさいいう苦情が来たなんてことは、さすがに言われへんかったけど。

あっこに長く暮らしとるAの足音がやたら小さい理由に、俺はそん時ようやく気がついたんやった。




「…いつまで続けるんやろな、俺ら」


珍しくすばるがそんなことを言うたんは、やっすい飯食いながら一通りの近況報告が終わった後、

行く宛がなくて入った、下北の古いゲーセンの片隅でやった。


煙草の煙が店中に充満しとる中、二人して100円もいれんとヤニ塗れの筐体に横並びで座って、

デモ画面で遊んだ気になって。


「…お前には歌があるやん」


…格闘ゲームの画面、レバー必死にがちゃがちゃ動かしたところで、俺らには闘う権利すらない。


ただ漠然と過ぎていく時間への焦りを、流れていく画面をじっと見つめることで、なんとか紛らわしているようやった。



「…俺は別になんもないからなあ。そりゃ売れたいけど、何をどう頑張ってええんか分からへんわ」


「…帰る、とか考えへん？」



「…大阪？ 負け認めた気がするやん。…それにAもおるし」


「は、お前どうせそれが本音やろ」


…うっさいわ。


…せやけど


ずっと誰かにとっての、ヒーローになりたくて、俺は


強くて、どんな強大な敵からも守ってやれる、男になりたくて。


…でもこの街で、俺は闘い方も敵の姿すら分からずに


ずっと空中に向かって徒手空拳を繰り広げてるみたいやったーー…

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