鶏肉なしのオムライス１【黒】 ページ28
「あ〜〜腹へったぁ…」
「なんか作る？ 材料卵とお米しかないけど」
「オムライスいけるやん！」
「鶏肉なしのね」
…そんな時間も経たんうちに
俺はAが暮らしとった、地上2階建て、2階の角部屋転がり込んで。
その日はクリスマスやったけど、金のない俺たちの暮らしは、365日平等にギリギリやった。
「いつかめっちゃ美味いもん食わしたるわ」
「ははは、期待してる」
８畳一間のアパート、ユニットバス、一口しかないコンロ。
狭い台所、料理中やろうと後ろから、俺は寸暇を惜しんで彼女にくっつく。
Aは俺の上下灰色のスウェットを着とって、
腕まくりしたその細い手が、愛おしかった。
「…好きやで」
「ん…もっかい言って？」
「…ほら、はよオムライス作らんと」
「ふふ、鶏肉なしのね」
…３つ年上の彼女はいつも余裕めかして、うなじに唇寄せる俺の攻撃を巧みにかわしながら
卵を４つ、銀色のボウルん中で溶いていた。
「…よし、」
「「メリークリスマス」」
床に直接おいた机、出来上がった料理を前に座った俺たちは、その狭いテーブル乗り越えてキスをする。
その拍子に触れたなけなしのビールが、グラスん中で円を描くみたいにゆらゆらと揺れていた。
…金も、仕事も、将来のビジョンもなんもあらへんかったけど。
「…こっち来てやぁ、クリスマスやで」
「冷めるよオムライス」
「…どうせ鶏肉ないやろ」
…愛と、欲望と、体温だけは。
その狭い部屋に充満しとった。
ーー…
「あっ…、」
…俺が、抱く時のAは
普段とは違って、全然余裕があらへんかった
「ん…、侯隆、もっーー…っ」
「何？ もう無理なん…？」
彼女はいっつも俺ん腕の中で震えて
指で掻き回すだけでぎゅっと目ぇつぶって首を振る
肌が汗ばむ
…俺はそれが見たくて何度も彼女を求めるーー…
「あっ…、待って…っ、」
「待たへんよ…」
「やっ…あぁっーーー、」
世界でこれを見られるんは俺だけやった
仕事ん時の、アホのふりしてけらけら笑ってる彼女とも
プライベートのちょっと強がっとる彼女とも違う
…ベッドん上で俺の下に組み敷かれて苦しそうに喘ぐ彼女こそが
ほんまのAのような気がした
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ゆき姉(プロフ) - 年末年始と忙しくて気になっていたけど我慢してやっと、読めました！あここで名前が？って予想外だったので戸惑った笑ほんまのほんま、の感想は完結した時に。でもでもだけど。やっぱりたまごさんのかくeightが好きです。 (2021年1月7日 18時) (
レス) id: f0721a3442 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - はるさん» はるさん、コメントありがとうございます、とても嬉しいです。ちょうど「CHANCE」が出たころっぽかったのでそのイメージでしたが、マドモアゼルココもいいですね！引き続き見守っていただけると嬉しいです。 (2020年12月17日 3時) (レス) id: 0669d21b3c (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 鳥肉なし、愛がたっぷりのオムライスがリアルっぽくて切な愛おしいです。シャネルの香水はマドモアゼルココが大好きなので、それをイメージしました。 (2020年12月15日 11時) (レス) id: c38ac67a9b (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - kukuさん» kukuさんコメントありがとうございます、嬉しいです！ほんと励まされます…！どうか引き続き楽しんでいただけますように！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぽてとさん» お返事ありがとうございました！ようやくご自身のお名前出てきたと思うので、どうか引き続きお楽しみいただけますように…！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2020年12月4日 16時
