たったひとつの恋２【黒】 ページ27
「ーー…」
“タカハシー、お前フリップ並べとけって言っただろ！”
“ヤマダさーん、アイロン借りてもいいですかー？”
…静まり返るこの部屋に
廊下からは、本番を控えたスタッフたちの慌ただしい声が木霊していた
「…今のじゃ、」
彼女がゆっくりと、口を開く…
膝ん上に参考書置いたままのAの目はようやくその時、
「…何にもわかんない」
真っ直ぐに、俺を見ていたーー…
「ーー…」
彼女はそのまま俺から目を離さずに
膝の上の参考書を、静かに閉じるーー…
「…なら、」
…言いながら俺はもう、
彼女の頬に手を当て その引力に吸い寄せられとって
「ーー…」
彼女の唇は薄く開いていて 参考書が膝から滑り落ちる…
太陽が重なって月が欠けるみたいに
俺の影で 次第に翳っていく彼女の顔ーー…
「もっとしよーー…」
滾る血
細胞が騒いで 濡れた舌が、
柔らかく絡んだーー…
ーー…
「ん…、」
「はっーー…」
“本番30分前でーす”
“あ、カナエちゃんよろしくー”
決壊すると、止まらんもんなんやと知った
俺の両腕は彼女の後頭部に回り
その熱の中で窒息しそうに彼女は首をそらす
ずるずると畳の上を彼女の腰は滑り
俺は全てを覆い尽くしたいと彼女の身体にのしかかる
「っ、A…、」
「んーー…」
安っぽい、俺と同じ茶色い髪の彼女…
流行りの細い眉毛
畳の上 絡まり合って漏れる吐息
“ナカタさんどこ行ったー？”
「んっ、も…行かなきゃ…、」
…俺たちは、離れるきっかけを完全に見失って
「ん…もぉちょっとだけ…」
当時そこら中に転がっとったカルバンクラインのck oneの香りが
俺の全身に絡みつくーー…
ーー…
「…A、」
「ん…っ、」
…二十歳前後の、ありふれた恋。
恋を始めることに躊躇する理由も分からないような
勢い任せで、
足りないもんばっかりで、それをどうにか埋めようと必死な
どこにでもおるような二人の、
「…好きやーー…」
…特別な、たったひとつの恋に
俺は、たちまち溺れた。
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ゆき姉(プロフ) - 年末年始と忙しくて気になっていたけど我慢してやっと、読めました！あここで名前が？って予想外だったので戸惑った笑ほんまのほんま、の感想は完結した時に。でもでもだけど。やっぱりたまごさんのかくeightが好きです。 (2021年1月7日 18時) (
レス) id: f0721a3442 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - はるさん» はるさん、コメントありがとうございます、とても嬉しいです。ちょうど「CHANCE」が出たころっぽかったのでそのイメージでしたが、マドモアゼルココもいいですね！引き続き見守っていただけると嬉しいです。 (2020年12月17日 3時) (レス) id: 0669d21b3c (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 鳥肉なし、愛がたっぷりのオムライスがリアルっぽくて切な愛おしいです。シャネルの香水はマドモアゼルココが大好きなので、それをイメージしました。 (2020年12月15日 11時) (レス) id: c38ac67a9b (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - kukuさん» kukuさんコメントありがとうございます、嬉しいです！ほんと励まされます…！どうか引き続き楽しんでいただけますように！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぽてとさん» お返事ありがとうございました！ようやくご自身のお名前出てきたと思うので、どうか引き続きお楽しみいただけますように…！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2020年12月4日 16時
