戻れない場所【ヒヨリ】 ページ21
…それからの一週間。
彼の姿をまた、見かけることはなくなった。
ナカジマ様ご夫妻はたまにお見かけしたけれど、彼らは私に軽く会釈をするだけだった
…あの３人の関係を私が勝手に推察するのは、失礼な気がして
なるべく考えないようにしたかったけれど、
ある日夢にまで出てきてしまったから、起きた時ぐったり疲れていた。
夢の中の彼は、あの人と道ならぬ恋をしていた
誰もいないロビーで、私だけがフロントに立っているロビーで、
二人は抱き合って、何度もキスをしていた
私は、それを…映画のように美しいそれを
見たくないのに、何も言えずに
ナカジマ様が帰ってくるのではないかとずっとハラハラしていて
鳩尾が痛くて、汗を掻いていた
「ーー…」
…バカみたい。
業務上知り得たことは一切口外してはならないのはもちろん、
そこに何かを想ったり感じたりする時点で、きっともうだめだった。
“ヒヨリちゃんの恩返しごっこ”も、もうおしまい
すべて、フラットに戻して、粛々と業務に徹するべきだとーー…
「…ヒヨリちゃん」
「ーー…」
…心に決めていたある日、エントランスを出たところで声をかけられた。
寒い中、帽子を目深にかぶって、玄関脇の壁にそっと寄りかかっていた。
「…どうなさったんですか」
「ん…ごめんな待ち伏せみたいなことしてまって…シフト的に今日は22時上がりよなあ思って」
…いつの間にシフトを把握するくらい、この人は私に興味を持ってくれていたのだろうと
少しだけ、うれしくなった自分が、浅ましかった。
「…もうプライベートよな？」
「え…はい…まあ」
「ほんならちょっと…付き合うてくれへんかな」
彼は申し訳なさそうに、そう言って私に小さなメモを渡した。
“ここに来てください、ほんまにごめん”
あんまり上手じゃない字と
お店の名前と、住所
ここから歩いていける距離にあるそのお店の場所を確認していると、
彼はそっと、先を歩き始めていた。
…そっか。
外を並んで、歩くわけにはいかないんだ。
改めて、彼の仕事の大変さを知りながら
…きっと彼は先日の説明をするつもりなんだろう
誰にも言わないし、そんなこと、気にしなくていいのに
「ーー…」
これ以上深入りしたら、自分がもう戻れない場所まで行ってしまうのではないかと
もうずいぶん遠くなったあの背中を、追うべきなのか、逡巡していたーー…
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ゆき姉(プロフ) - 年末年始と忙しくて気になっていたけど我慢してやっと、読めました！あここで名前が？って予想外だったので戸惑った笑ほんまのほんま、の感想は完結した時に。でもでもだけど。やっぱりたまごさんのかくeightが好きです。 (2021年1月7日 18時) (
レス) id: f0721a3442 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - はるさん» はるさん、コメントありがとうございます、とても嬉しいです。ちょうど「CHANCE」が出たころっぽかったのでそのイメージでしたが、マドモアゼルココもいいですね！引き続き見守っていただけると嬉しいです。 (2020年12月17日 3時) (レス) id: 0669d21b3c (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 鳥肉なし、愛がたっぷりのオムライスがリアルっぽくて切な愛おしいです。シャネルの香水はマドモアゼルココが大好きなので、それをイメージしました。 (2020年12月15日 11時) (レス) id: c38ac67a9b (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - kukuさん» kukuさんコメントありがとうございます、嬉しいです！ほんと励まされます…！どうか引き続き楽しんでいただけますように！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぽてとさん» お返事ありがとうございました！ようやくご自身のお名前出てきたと思うので、どうか引き続きお楽しみいただけますように…！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2020年12月4日 16時
