地上32階の恋【黒】

特別な数字【黒】 ページ20

…

何が


起きたんか、全っ然分からへんかった



…あいつが


Aが


現れたと思ったら、



“A！”


ナカジマさんが


あいつの名前を呼んだ



そん後、俺は何を話した？


ナカジマさんは何を言った？



…
わからんくてとにかく


一刻も早くあの場から離れんとあかんと


やけどなるべくエレベーターまではゆっくり歩いた


見ないようにしとったあいつの姿はそこにはもうなくて


…俺が見たんは、幻やったんやろうか



やけど


逸る気持ち抑えて乗り込んだエレベーターからは、たしかに懐かしい匂いがした


いや…そんな




もう、15年も前のことやーー…




ーー…


いつの間にか、俺は電気もつけず部屋ん中入ってて


ソファの上、じっと座り込んで


ふと窓の外を見ると、見慣れたはずの夜景が広がっていた



「ーー…」



“横山くん、なんであのマンションなん？ 前んとこのほうが便利やろ、局も事務所も近いし”


引っ越した時、大倉にそう聞かれたことがあった



“…32階が空いとったから”


“え？ なんなんそれ”


“いや嘘…気分転換よ”



ーー…



“なあ、ほんならさあ、Aの夢はなんなん？”


“んー？ 侯隆がめちゃくちゃ売れてね、一緒に高層マンションで暮らすの”


“おう、ええな、何階がええん？”


“ん〜わかんない、32階くらい？”


“うっわ、そない高いマンションあるんかな”


“わかんないけど、きっとあるよ、その頃には”


ーー…



…アホやけど


俺はあん時の数字が忘れられんくて


窓辺に立って、今暮らすこの部屋から、どこまでも続いとる地上の光を見渡す



“うちの奥さんも横山さんのファンらしくて”

“僕には隠してるみたいなんですけどね”


どういうことやーー…




“…嘘、売れなくてもいいよ”


“いや俺は売れるって！”


“…どっちでもいいけどさ、ずっと一緒にいてね”


“それは前提やろ？”



…何が、起きたんか、

やっぱり俺は混乱しとって全然わからんかったけどーー…




…Aは、俺が15年間ずっと捜してきた女やった。

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