8 ページ25
電車は混んでいる。
櫻井くんは私が潰されないようにスペースを作って立ってくれた。
彼の顔が至近距離に。どうしよう。
やっぱりドキドキするのはお酒のせいだと自分に言い訳をする。
「苦しくない？大丈夫？」
「うん……」
櫻井くんに気遣われて何でもない振りをしたけど、違う意味で苦しい。
こんな近くで、ちょっと体勢を崩したら触れてしまいそう。
「今日は楽しかった」
櫻井くんがそう言うから、私も平静を装って答える。
「私も。付き合ってくれてありがとう」
「またこんな風に会ってくれる？」
「もちろんだよ！」
櫻井くんが目を細める。
食い気味に返事をしてしまった自分が恥ずかしくて、下を向いた。
社交辞令じゃなくて、次があるんだ？
嬉しい。
私とまた会いたいと思ってくれるなんて。
電車は私と裕貴が住む家の最寄り駅に着く。
ここでいいよと言ったけど、心配だからと櫻井くんはマンションの前まで一緒に歩いてくれた。
エントランスに入る。
名残惜しいけど、ここでお別れだ。
「わざわざありがとうね」
「ううん」
「じゃあ、おやすみ」
「……」
「櫻井くん？」
急に黙った櫻井くんから、笑顔が消える。
どうしたんだろう。
「早く行かないと電車なくなっちゃうよ」
「Aさん……」
「え？」
一瞬の出来事だった。
櫻井くんは私の体を引き寄せて、腕の中に閉じ込めた。
事態を理解するのに少し時間を要した。
まさか櫻井くんがこんなことをするなんて、夢にも思わなかったから。
私は今、櫻井くんに抱き締められている。
何故こうなった？
こんなとことろを誰かに見られたら。
裕貴と鉢合わせでもしたら。
「櫻井くん、あの……っ」
離して、と言おうとした唇は、櫻井くんに奪われた。
驚いて見上げた櫻井くんは、思い詰めたような顔をしていて。
「ごめん」
そう言って、足早にエントランスから出て行った。
どうして？
何が起きたの？
ごめんってどういうこと？
私は暫く呆然としていた。
唇に残った櫻井くんの温もりは消えてくれない。
身体中が心臓になったみたいに脈を打つ。
熱い。
こんな感覚は久し振りだった。
裕貴とは抱き合うことはおろか、キスをすることさえなくなっていたから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2288人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
yuko(プロフ) - よっしーさん» よっしーちゃん、感想ありがとう♪新しいお話を立ち上げますよ〜長らくお待たせしちゃってごめんなさい！ (2018年3月15日 0時) (
レス) id: c2650238d0 (このIDを非表示/違反報告)
よっしー - ドキドキハラハラしたよ(*_*)続きが楽しみだよ〜。更新待ってるね(^o^)/ (2018年3月3日 15時) (レス) id: a1ac4d5582 (このIDを非表示/違反報告)
yuko(プロフ) - keiさん» keiちゃん、感想ありがとう♪ドキドキしてくれてありがとう！そうそう、イケメンってのはそれだけで正義だから(笑)更新が滞っててごめんね、章を変えて次のお話を書こうと思ってます☆ (2018年3月2日 23時) (レス) id: c2650238d0 (このIDを非表示/違反報告)
yuko(プロフ) - ゆりさん» ゆりちゃん、感想ありがとう♪うんうん！主人公のことを愛してくれるんなら構わない、逃げ道塞がれたようでちょっと怖いけど、そんなところも好き(*´∀`*)全然更新できなくってごめんね、そろそろ次のお話に手を付けようかと思ってます☆ (2018年3月2日 22時) (レス) id: c2650238d0 (このIDを非表示/違反報告)
yuko(プロフ) - ﾅｵさん» ﾅｵちゃん、感想ありがとう♪色々と負の感情を引き出しちゃってごめん(-人-;)確かに七瀬さんは口が軽いね、仲良くなりたくないかも。裕貴も最低だけど主人公も浮気してたから大概だよねｗ賢い翔さんはまんまと主人公を手に入れたって訳です(*´∀`*) (2018年3月2日 22時) (レス) id: c2650238d0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：yuko
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=yashikonbu
作成日時：2018年1月16日 0時
