117 正体 ページ37
誰もいない、西棟の空き教室。
窓は防風林に面していて、朝日はほとんど入ってこない、薄暗い空間。
机の上に腰掛けた早島先輩と向かい合って立つ私は、うまく言葉が出てこない。
何て切り出したらいい？
「…あの」
先輩の目が私に向けられる。
緊張で、背中をひんやりとした汗が伝った。
「昨日は…松本さんは私を家に連れ戻しに来ただけです、父親の命令で」
「…」
「それに今朝のことは、松本さんに私のことをボロクソに言われて、悔しくて泣いちゃって…
そしたら慰められて…」
先輩が顔を歪めて、私の目をじっと見た。
「泣かされたの？あいつに？」
「はい…
あの人とは仲良くなんかないです。
私のやることが全部気に食わないみたい…」
「どういうこと？」
「松本さんは父の手下で…
私を監視してるんです、きっと」
「監視…？」
「私があの家から逃げ出さないように。
だから、私と松本さんは先輩が思っているような関係じゃないです」
先輩は口元に手をやって、考え込むような仕草をする。
お願い、わかって。
私は松本さんのことなんか好きじゃない。
松本さんだってそう。
私なんか邪魔な存在のはず。
「あの人、俺達を引き離そうとしてる？」
そうだよ。
全ては松本さんの策略。
先輩の言葉に、私が何度も頷くと。
先輩は呆れたように、はあって溜め息をついた。
「そっか…疑ってごめん」
「いえ…」
「てっきりAちゃんはあの運転手と出来てて、俺は弄ばれてたのかと…」
「そんなっ…！違います！」
弄ぶだなんて、そんな。
あり得ない！
これで、誤解は解けたのかな…？
「おいで」
先輩が私に向かって腕を伸ばす。
私がその中に入ると、先輩はきつく抱き締めた。
「俺は、Aちゃんのことが好きだよ」
頭の上から降ってくる先輩の声は、切なくて、苦しくて。
私の胸を締め付ける。
好きな気持ちは伝染する。
好きだと言われる度、私の心はどんどん先輩へと傾いていく。
こんなに私のことを想ってくれているんだもの。
惹かれないでいる方が無理というものだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2088人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
翔愛 - そっから落ちても…(省略)って言葉も落ちそうになった主人公ちゃんを助けた瞬間も先生と出会った時と同じでデジャブだ〜って思ってドキドキしました。青い空に気持ちいい風、先生との秘密の屋上、本当にyukoさんが書かれる小説はいつも私の好きなシチュで嬉しいです！ (2017年4月14日 16時) (
レス) id: d652330211 (このIDを非表示/違反報告)
yuko(プロフ) - 翔愛さん» 翔愛ちゃん、感想ありがとう♪コメントをたくさん貰えるのは嬉しいから全然大丈夫だよ〜！私もいつも簡潔に書けなくて文字数オーバーしそうになってる。かっこいいよね、櫻井先生。主人公の危機をどう救ってくれるのかお楽しみに！ (2017年4月10日 0時) (レス) id: 7b49a3b518 (このIDを非表示/違反報告)
yuko(プロフ) - よしみなさん» よしみなちゃん、感想ありがとう♪中途半端に終わっちゃってごめんなさい。次の章で明かしますんで読んでね！ (2017年4月10日 0時) (レス) id: 7b49a3b518 (このIDを非表示/違反報告)
yuko(プロフ) - ゆりさん» ゆりちゃん、感想ありがとう♪櫻井先生、いいところで登場しすぎ（笑）？ここは先生に活躍してもらわないと！次章では主人公の心が先生へと向かう予定だよ。やっとここまで来た（笑）うまいこと書けますように！ (2017年4月10日 0時) (レス) id: 7b49a3b518 (このIDを非表示/違反報告)
yuko(プロフ) - しずくさん» しずくちゃん、感想ありがとう♪中途半端なところで終わっちゃってごめんね。早島先輩のことは流川先輩も蘭ちゃんも知らなかったことになってるよ。知ってて近付けたんなら怖すぎ…先輩は主人公を断れないように追い込んでるのです。。 (2017年4月10日 0時) (レス) id: 7b49a3b518 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：yuko
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=yashikonbu
作成日時：2017年3月16日 1時
