Episode10 出発 ページ12
『ちょっと待ってTord。忘れ物した』
そうだったそうだった。大事なものを忘れていた。名残惜しかったが、私はTordの手をそっと離し自室へ直行する。ベッドの上に置いてあるソレを素早く回収し、大人しく玄関で待っている彼の元へと早足で向かった。
『はいコレ』
私はそう言って、呆けた顔をしているTordの頭に黒いキャップを被せる。突然頭部を覆われた感覚に驚いたのか、Tordは一瞬たじろぐと、直ぐに不思議そうな表情で私を見つめた。
「なんでキャップ?」
『ただでさえ外国人は目立つのにそんな特徴的な髪型してたらね……それにこっちの世界のTordって日本じゃ知名度あんまり高くないけど世界規模じゃ結構有名だからさ。軽い変装みたいなもんだよ』
「ふーん…?」
一通り簡単に話してみたが、Tordにはあまりピンと来ていないようだ。まあ別世界の自分が世界規模で有名、なんて言われてもピンと来る人間の方が少ないか。(実際は別世界でも何でもなく本人な訳だが)
そんなやり取りをしながら私達は目的の場所へと向かうため、やっと近場の駅へと歩みを進めた。
しばらく駅まで2人で歩いていると、ふと私は先程からTordが物珍しそうに周りを見ている事に気が付く。
『どうかした?』
「いや、やっぱ国が違うからか都心部でも結構違いあるなって。それにひとつ気付いた事があるんだ」
『気付いた事…?』
「ああ。流暢に日本語が喋れる時点で何となく察しはついてたんだが____読めるんだよ、日本語」
あまりの事実に思わずTordを2度見する。それと同時に例の機械の万能さに私は些か関心を覚えた。書く事が出来るのかはまだ不明だが、おかげで日本語を教える手間が省けたって訳だ。
そんなこんなしていると、もう駅が目前に迫ってきている事に気が付いた。駅は人が混む為、迷子防止も兼ねて恥ずかしかったが私はTordの手を引いて切符を買った。
羞恥心を押し殺し、何とか電車に乗り込んだTordと私。平日の昼間だった事もあり、私達は運良く空いていた席に座る事が出来た。
その時始めてTordの手を離した私は、脈の早くなった心臓を深呼吸しながら撫で下ろす。
「…クク」
『…なんだよ』
そんな私の様子をTordは肩を小刻みに揺らしながら眺めている。流石に不満が募った私は、恥ずかしさを隠すためにTordを睨んだ。
「ふは、そう怒んなって。あまりにもAが耳まで顔真っ赤にしながら手引くもんだから面白くてさ。もしかしなくてもお前男慣れしてねぇだろ?」
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ベンザチャン(プロフ) - 久しぶりの更新嬉しいです!!Tordと夢主の相性が抜群ですね!!!(?)無理せず更新頑張ってください! (2023年1月25日 8時) (レス) id: 7db4a09c58 (このIDを非表示/違反報告)
大祝 - お久しぶりですー!この作品大好きだったので更新嬉しいです! (2022年10月28日 17時) (レス) id: e74f7c17fb (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - いつも楽しみに待っていました!これからの展開を楽しみにしています! (2022年10月28日 17時) (レス) @page29 id: e11f93c1d4 (このIDを非表示/違反報告)
omio(プロフ) - 更新待ってました!来る日も来る日もチェックさせて頂いていましたが本当に嬉しすぎてやばいです!!次の更新も心待ちにしてます! (2022年10月27日 18時) (レス) id: 0610d9afb5 (このIDを非表示/違反報告)
ベンザチャン(プロフ) - 久しぶりの更新嬉しいです!相変わらずの豊富な語彙力羨ましいです…!無理せず更新頑張ってください!! (2022年10月27日 8時) (レス) id: 05631b7c6e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はちまき | 作成日時:2022年7月10日 21時