84話 ページ34
「何度も言わせるな」
「言われても今日は折れないよ」
淡い色に包まる住宅街で呑気に欠伸をする黒猫の前には、珍しい光景が繰り広げられていた。
昨夜の柔らかな口調とかけ離れた相澤の物言いに対して、Aは行く手を立ち塞ぎながら首に下げていたネクタイを結んでいる。
身体のあちらこちらに包帯が巻かれ、怪我が完治していない状態で街中を歩くのはプロヒーローとはいえ危険が伴う。
心配と遠慮の攻防はどちらも譲らず、ただ時間だけが過ぎていく。
非合理的な会話に相澤の眉間の皺は増える一方だった。
「子供じゃないんだ。自分の面倒くらい見れる」
「でも、その怪我」
「でもじゃない。いいから寝ておけ、隈酷いぞ」
先日の廊下での出来事と違ってAの目元に相澤の手が伸びることはない。
爆豪にも指摘されていた顔色を確認するため、Aはリュックサックから携帯電話を取り出した。
画面に表示されたのは出勤時間をとっくに過ぎていることを知らせる数字の列。
「消太さん」
「今度はなんだ」
「いつもなら家出てる時間だけど」
いいのかな、と態とらしく急かすAを他所に、口を尖らせていた男は遠くを見つめて頭を捻る。
暫くして大袈裟に深い溜め息を吐いた。
「……勝手にしろ」
大股で進み始めた後ろ姿をAは満足気に追う。
日中は車も人も多い大通りだが、この時間帯はどこかの家で鳴り響く目覚まし時計のアラーム音が聞こえるほど静まり返っていた。
相澤には「生徒に見られた時の言い訳考えておけよ」と念を押されていたが、その話も忘れていいだろう。
Aは犬と散歩をする老人に挨拶を返して雄英高校に向かった。
登校時間より半時間ほど早い教室に人の姿はない。
普段賑やかな空間では体験できない孤独感に包まれていた。
木の上で仲良く鳴いている鳥の声がぼんやりとした頭に眠気を誘う。
抗う体力は残っていなかった。
Aは机に顔を伏せて一眠りすることにした。
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やおや(プロフ) - パイナップルさん» お返事が遅くなってしまい申し訳ありません…。ご感想ありがとうございます。亀更新ですが楽しんでいただけるよう頑張ります！ (2023年2月5日 21時) (
レス) id: b7b6f6768c (このIDを非表示/違反報告)
パイナップル(プロフ) - すごく好きです！更新楽しみにしています！ (2022年9月14日 23時) (レス) @page19 id: 16127b2cec (このIDを非表示/違反報告)
やおや(プロフ) - すめしさん» ご感想ありがとうございます。所々謎の多い設定を詰め込んでますが、お話が進むにつれて明らかになるような構成となっておりますのでその点も含めて今後もお楽しみ頂ければ幸いです…！ (2021年4月20日 0時) (レス) id: 889f105f89 (このIDを非表示/違反報告)
すめし(プロフ) - めっちゃ面白いです…！個性についての説明がないので、どんな個性なんだ…と読んでいてワクワクします。これからも楽しみにしてます！！ (2021年4月17日 2時) (レス) id: 805a88b6fb (このIDを非表示/違反報告)
やおや(プロフ) - ポン酢さん» 貴重なご感想、応援をありがとうございます。嬉しい限りです。最終回をお届け出来るよう精一杯努めますので、今後ともよろしくお願いします。 (2021年2月7日 0時) (レス) id: c63586aa9a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やおや | 作成日時：2021年2月1日 22時
