独占ケーキメイキング！ ページ7
【トレイ・クローバー】
ケーキ作りをしたい、なんて。また1つ彼女の女の子らしい一面を見られた気がするとトレイは思った。
「よし、生地はできたな。焼いてる間にフルーツを切ってくれ。俺は生クリームを泡立てる」
「手慣れてる感がすごい……」
「ハハッ、実際慣れてるしな」
A曰く、『トレイ先輩が作るケーキは見栄えも味もすごく良いから一緒に作ってみたい』とのことで。トレイがそれを快諾して今に至る。
それはケーキを作るとなれば彼ら＿＿特に食いしん坊の魔獣＿＿が黙っていなかったが、作ること自体に興味はないらしく、トレイが『完成後に分ける』と約束すると大人しく調理室から出ていった。
「こうやって静かなのも、偶にはいいんじゃないか？あいつら賑やかで楽しいけど、賑やかすぎても疲れるだろ」
「そうですね。偶にはいいかもしれません」
口元を綻ばせつつ真剣な眼差しで苺を切るAの横顔をトレイが見つめる。彼女の周りにはいつも誰かしらが居るから、こうして2人きりになるのにも苦労したのだ。
＿＿＿＿まあそれは、ただの俺のわがままなんだが。
「今度先輩の実家のケーキ屋さんも行ってみたいです」
「おっ、いつでも歓迎するぞ」
所々そんな雑談を交わしながらお互い手を動かしていると、いつの間にやらスポンジケーキが焼き上がっていた。
先程冷蔵庫に入れておいたホイップクリームを取り出し、ケーキへ塗っていく。以前も多少料理をする方だったのかAは手際よく進めていった。
「側面の塗りすぎたクリームは、こうするといいぞ」
「あ……はい」
彼女が弱冠顔を赤らめたのは、トレイがパレットナイフを持ったその手を後ろから握ったからだ。半ば覆いかぶさるような体勢に鼓動が速まる。
それを下心など一切感じさせずやってのけるから、このトレイ・クローバーという男は恐ろしい。
無事にクリームを塗り終えたものに苺をデコレーションして、ついにケーキが完成した。
「完成、ですね！」
「嗚呼。すごくイイ感じにできたな。皆のところへ持っていく前に、少し休憩しないか？」
「……いつの間に紅茶淹れてたんですか？全然気付かなかった……」
「誰かさんが夢中でデコレーションしてる間に、な」
休憩なんて口実で、ただもう少しだけAを独占していたかった……なんて。
『思ってたけど言わない』彼が、その"想い"を告げるのは、まだ少し先の話になりそうだ。
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作者名：ゆのみ | 作成日時：2020年5月14日 22時
