弁償リストウォッチ！ ページ3
【ジェイド・リーチ】
最初に気付いたのはエースだった。いつものように食堂で昼食を摂っていた昼休みのことだ。
「あれ。Aの時計、何か前と違くね？」
スプーンを握るAの手首に巻かれた時計はシンプルだが上品さを兼ね備えており、まさに女性用といった感じの代物だった。ベルト部分は深海を思わせるような深みのあるブルーで、金色の金具がよく映える。
「ほんとうだ。新調したのか？」
「ああ、実は……」
「僕が贈ったんです」
エースとデュースの背後から大きな影が2つ。
190cmの身長を差し引いても他の誰にも間違えようが無い。
「リーチ先輩！いつの間に……」
突然現れた2人に、エースとデュースは驚く。グリムなんかは「ふなっ！出た！」とAの背に隠れた。あのトラウマは未だに拭えていないらしい。
「あは。小エビちゃんの時計、こないだ壊れちゃったんだよね〜」
「壊れた？」
「ええ。改めてその節は大変ご迷惑をおかけしました、Aさん」
「いやいや本当に気にしないでください。というか、わざわざ新しくこんな素敵な時計までいただいてしまって……こちらの方が申し訳ないくらいです」
何やら訳ありらしいジェイドとAの会話に、エースたち3人は首を傾げた。
その様子に気付いたのか、ジェイドが解説してくれた。
先日、魔法薬学で使った薬草が余り、Aがジェイドの趣味であるテラリウムの為にモストロ・ラウンジまでお裾分けしに行った事。
折角だから一緒に植え替えをしてみないかと誘った事。植え替えを行うのに邪魔にならないよう外した時計が、ジェイドが道具に手を伸ばした拍子に床に落ちてしまった事。
そこへ偶々通りかかったフロイドが落ちていた時計に気付かず踏んでしまい、文字盤のガラスが割れてしまった事。
これを聞く限りどちらかというと壊してしまったのはフロイドではないかと思うが、ジェイド曰く「そもそも落としてしまった僕の不注意」との事。
黙ってジェイドの解説を聞いていたグリムがふと、Aの左手首に巻かれた時計とジェイドを交互に見る。
「何か見覚えあると思ったら、この時計、オマエにそっくりなんだゾ」
「そうですか？」
「ジェイド、やけに真剣に選んでるとおもったら"そういう事"だったの？」
「さぁ？何の話でしょう？」
「ではこの辺で」と、いつものように妖しく笑って、2人は去っていく。
去り際に目が合ったAにジェイドは、黒と金色のオッドアイを意味有りげに細めたのだった。
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作者名：ゆのみ | 作成日時：2020年5月14日 22時
