(55)憂い ページ14
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其処は物凄く静まり返っていた。
それほど高くないが、覆われた蔦のせいで"そびえ立つ"という言葉が厭に似合う。
「国木田君、」
「来たか。彼奴はこの中だ」
太宰の方を向いた侭、親指で後ろのビルを指す国木田。どうやら中に逃げ込まれたらしい。
標的が此の中に居る事を知ったAは、黙って目の前にそびえ立つ廃ビルを見つめていた。
『………』
黙って扉を押し開ける彼女の背中には憎悪と嫌悪が見て取れた。
然し、それはきっと彼の女への感情だけじゃない。
自分への感情でもある事を、太宰は知っていた。
其れに、たかだか一般人上がりの夫人にAが負けるわけない事も判りきっている事だ。
「待て」
太宰が止めなかった背中を国木田が止める。
「あの女は異能力者だ。其れも、地味に厄介な」
「何だって…?」
「詳しい事は判らない。だが、少なからず、彼奴には敵の動きを止める力が有る」
『そんなの私には関係無い』
だが、其の言葉でAは止まらなかった。
一発目に物見せてやらないと気が済まないのだ。
彼の女は私が一番思い出したくない事を、一番他人に知られたくない事を、ずっと隅に追いやって見ないようにしていたモノを蘇らせたのだ。
ガチャン、と音を立てて硝子の扉が閉まったのを確認すると太宰は国木田に向き直った。
「…却説、私達も行こうか国木田君」
「あ、嗚呼…にしても、何なんだ」
「さあね。私も良く判らないよ」
そう呟く様に言い、Aと同様に扉を押し開けた太宰は何かを憂いているような表情だった。
彼女と離れた二年間。
其の二年間という時間は短い様で長かった。
(きっと知っているのは、判っているのは……)
だからせめて、此の事件が終わるまでは____
一言でも多く言葉を交わさせてくれ。
少しでも多く今の君を教えてくれ。
ほんの一寸で良いから顔を見せてくれ。
二年の間、彼奴に見せていたものを私にも分けてくれ。
傍に、居させてくれ。
「…錆びれても矢張りビルだな、キリがない」
「二手に分かれるかい?」
「そうしよう、俺は此方から行く。お前は其方だ」
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ヤマダノオロチ(プロフ) - Yuukiさん» ありがとうございます!やっと構想がまとまってきました。これからもよろしくお願い致します! (2017年2月18日 23時) (レス) id: b2832ff97e (このIDを非表示/違反報告)
Yuuki(プロフ) - とても面白かったです!スランプで大変だと思いますが、これからも頑張ってください!応援してます!! (2017年2月18日 23時) (レス) id: 3720d37733 (このIDを非表示/違反報告)
ヤマダノオロチ(プロフ) - 天さんさん» コメントありがとうございます!上から目線だなんてそんな事無いですよ!?お褒めに預かり光栄です(>_<)最近はラブソングばっか聴いてて、主と中也くっつけたい〜とか考えてます(笑)これからも頑張ります! (2017年2月14日 20時) (レス) id: b2832ff97e (このIDを非表示/違反報告)
天さん - う、上から目線で失礼しましたぁああッ!! (2017年2月14日 19時) (レス) id: 6b9cd4fe2d (このIDを非表示/違反報告)
天さん - スランプ大変ですよね…文章とか読みやすくて好きです!頑張ってください(*´ω`*)ちなみに、私はスランプの時は曲を聞いてます。曲聞いてるとネタがポンポン出てきますので…!これからも応援してます(´˘`*) (2017年2月14日 19時) (レス) id: 6b9cd4fe2d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヤマダノオロチ | 作成日時:2016年9月4日 20時