きっと其の五十九 ページ9
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耳を疑った。"異能が勝手に発動した"……?
例の件でAの異能が可笑しいのは把握していたが、それは"自分で発動した後の制御が利かない"という事だった筈だ。
もっと詳しい話を聞くため、中原は再びAに電話を掛けた。先程とは違い、次はすぐに通話が始まる。
「いつ発動したんだ?」
『初めて発動したのは昨日の夜です。洗面所の鏡を見たら意識が鏡の国に飛んで…』
「初めて、って事は1回じゃないんだな」
『最初は変な夢を見たんだと思って気にしてなかったンですけど、今朝身支度の為に鏡を見たらまた……』
壁一枚向こうから繋がる電話の声は微かに震えていて、彼女の不安をそのまま中原に伝えた。
『昨日、立原からある話を聞いたんです』
少しの沈黙を挟んで、次はAから話し出す。徐々に落ち着きを取り戻してきているようだ。
立原から聞いたというその話は、いつか中原が出会った異能特務課の女の話だった。
「なるほどな」
『……どうしたらいいンでしょうか……ドジソンさんを見つけるにしても、私は彼について何も知りません』
耳元の声が遂に涙声に変わった時、彼の頭に1つの案が浮かぶ。
「A、俺に少し考えがある。……開けてくれ」
『でも、』
「俺が其の"黒の女王"とやらをぶっ倒したら、どうなるんだ?」
『黒の女王が他者からの攻撃を受けた事は今までありません。攻撃できるのかさえ判らない……危険です』
「生まれたばかりのひよっこ異能に俺が負けると思ってンのか?早くしねえと俺自らこの扉に風穴空けるぞ」
そんな脅しまがいの台詞に『え、』と拍子抜けな声を洩らしたAは、続いて諦めたように小さな溜息をついた。
ガチャリ。鍵の開く音が響く。
中原が立ち上がってドアノブを引くと、蹲ったままのAが足元に居た。
「中原幹部、」
「説教なら後でたっぷりしてやるからまだ謝ンな。泣くのも……まだにしとけ」
その言葉に彼女は目元を拭う。
「私の異能が解除される時は、私の意識がなくなるか対象が死亡するかのどちらかです」
「死なねえよ。一緒に生きて帰るんだ、黒の女王とやらから」
突き出された拳にAも恐る恐る己のものを合わせる。
合わせた拳を開き、Aは自分の懐からいつも持ち歩いている手鏡を取り出した。それをゆっくりと彼に向けて、呟く。
「
彼もまた、心の中で呟いた。
___俺が絶対、お前を救ってみせる。
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ヤマダノオロチ(プロフ) - カンナさん» ちょっと……涙が出そうです……ありがとうございます。お待たせしました(> <) (2020年6月16日 19時) (レス) id: 20ed7c05bd (このIDを非表示/違反報告)
カンナ(プロフ) - 初コメ失礼します。更新楽しみにしていました。おかえりなさい(*´ω`*) (2020年6月16日 18時) (レス) id: 5ade983ea5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆのみ | 作成日時:2019年5月11日 13時