きっと其の四十一 ページ41
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泣かせてしまった。大切な"友人"を。
彼の涙を見たのは初めてだった。幾らか長い付き合いの中で、彼が泣くことなど一度も無かった。
足が縛り付けられたように動かなくなって、彼が走り去った廊下を呆然と見つめる事しかできなくて。
__あれ、何で私まで泣いてるんだろう。
彼のがうつったように涙が一雫頬を伝った。
誰にも見られないように即座に拭って、新しく与えられた執務室へ急いだ。
今回与えられたのは小さな個室で、中にはポツンと文机が据わっていた。先に運び込んでおいた1箱のダンボールへ手を掛ける。
開くと、2日前に立原がくれた髪留めが見えた。
____お前、髪伸びたよな。邪魔じゃねえの?
いつだかそう云った何でもない彼の顔を懐かしく感じて、それを引き金に彼の優しい一面が走馬灯の様に次々浮かんできた。
私だって莫迦じゃない。薄々気付いていた。彼から寄せられる好意に。それなのにあの場で何も返せなかったことを酷く後悔している。
嗚呼、最低だ。
そう思った瞬間、拭ったはずの雫が雨に変わって溢れてきた。
___こんな夜中に危ねえだろ。
___どこ行ってたんだ!すげえ心配したんだぞ!!
___あんまり、無茶とかはするなよな。
___いいから!大人しく寝てろ!!
___まあ、それがお前が出した答えなんだろ。
___ん。餞別代わりにやる。
___俺、好きなんだよ。Aのこと。
「っ……」
あの苦しそうな顔が頭から離れなかった。
これほど優しくしてもらったのに、助けてもらったのに、あんなにも傷付けてしまった。
もう何もかもグチャグチャになって、荷解きは全然進まなかった。
そのまま泣き疲れて文机に寄りかかってうたた寝をしてしまったAは、中原からの着信にも気付かなかった。
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作者名:ヤマダノオロチ | 作成日時:2018年2月5日 0時