きっと其の十一 ページ11
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『Shall we dance?』なんてハリウッド映画でしか聞いたことのない台詞だった。
どうすれば良いか判らなくて「あ、えっと…う…」とたじろぎつつ、やっと「私、踊ったこととかなくて」と発した声は尻すぼみに音量が下がっていった。
「構いません、さあ」
「いや、わっ…ちょっと……!」
そうこうしているうちに手を引かれ、あっという間にホールドされてしまった。
想像以上に距離が近い。しかも相手は知らない男性。全身の筋肉がガチガチに緊張しているのが判る。
そんな私を無視して曲は流れ始め、男性も私をリードし始める。されるがまま、とはまさにこういうことだ。
1曲踊り終える頃には、少しばかり息が上がっていた。
「Thank you, lady」
「さ…Thank you ……」
何とか微笑み返すと、再び手を引かれた。
だが、今回手は腰に回らず、頸元に回される。そして、こめかみには冷たい金属の感触。
「なっ……?!」
「A!」
前方から立原の声が聞こえた。しかし、周囲の動揺にかき消されて姿は見えない。
「動くな、叫ぶな。命が惜しければ」
先程までの紳士的な口調とは打って変わって、その声音は冷たい。
さて、どうしたものか。この人の目的は判らないが、大人しく人質になっているのも癪だ。
「動いちゃいけねえのはアンタもだ」
「…ハッ、やるね。中々だ」
いつの間にか、男性の後ろに立原が居る。おそらく得物は男性の頭を捉えているのだろう。
それでも尚、男性は余裕な態度である。
何故そのような態度がとれるのか、答えは難しいようで簡単だ。他に仲間が居るか、相当な手練かの2択。
この場合厄介なのは前者だ。後者ならまだ数の利があるため太刀打ちできるかもしれない。だが、前者の場合、どうしようもない可能性もある。
とりあえず、この腕を捻り上げて脱出しよう。
伏せた目を開けて息を吸った時、「オイ」と立原でも後ろの奴でもない男の声が響いた。
「今すぐ其奴から手を離せ」
「それは
其処へ見えたのは、汐野さんの頸元にナイフを突き付ける中原幹部だった。
脳が少しずつ、状況を理解し始める。
立原も同じなのだろうか、ゆっくりと手を降ろした。
「俺らに楯突いた輩がどうなるか…知らねえわけねえよなァ?」
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作者名:ヤマダノオロチ | 作成日時:2018年2月5日 0時