吉原の桜 (ページ2)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:2,296 hit

吉原ページ2

二人はお互いの近況を語らいながら歩いた。

しばらくして兵衞次郎が見上げるのは、女の花園、男の楽園である立派な遊郭だった。

「吉原も久しく行ってねえな。ーーよし、いっちょ行っちまおうや。」

後ろから聞こえる声など聞こえていないように吉原に足を踏み入れた。

苛立たしげに後を追う松千代丸。

少し小さめの個室に案内された二人は向かい合って座っていた。

「一体どういうつもりだ。俺は吉原に来るなんて聞いてないぞ。」

睨まれた兵衞次郎は肩をすくめながら

「いいや。俺は飲みに行こうとは言ったが、飲み屋に行こうとは言ってねえぜ。」

と悪びれもなく言った。

「ッチ、よくもまあぺらぺらと嘘八百を並べやがって。手前元からそのつもりだっただろう。」

「へえへえ。相変わらずおっそろしいねえ、松千代は。いいじゃねえか。最近仕事ばかりで女の影なんかありゃしねえ。溜まってると思ってよ。」

「その呼び方はやめろと言っただろう。はあ。要らぬお世話だ。そういうお前は遊んでばかりじゃねえか。よく九郎太夫殿も野放しにしているものだ。息子が愚行を繰り返しているというのに。」

「あいつは俺のことなんてなんとも思っちゃいねえよ。実際、家ではいていないような扱いを受けてるんだ。俺よりも弟の千松を藩主にする気だろう。」

先ほどまで笑っていた兵衞次郎の口角は下がり、眉間に皺が寄り、途端に険しい顔になった。

こいつはこいつで色々苦労があるようだ、と松千代丸は悟った。

その時、襖の奥から鈴がなるような声がした。