平行線の煙 3 ページ4
「あっ、要らないなんて言ってないだろ」
今となっては、知りたかったんだと思う。吸血鬼だという遠い隣の男を、子供ながらに少しでも知りたかったんだと、思う。リリイが火を分けてくれようとしたが、Aは俺がやっても似合わないしな、と断って、ようやく見つかったライターで火を着けた。
リリイが言っていたように、Aの知る物とはだいぶ違う。吸い込んだ煙も吐いた煙も、甘い香りがした。隣でAのよく知る煙草を吸う男も、こんな甘い香りがする。ずっと香水かとも思っていたが、もしかするとリリイの甘い香りは煙草のなのかもな、とAは思った。
「……こんなのもあるんだな。甘い香りがする」
「嫌いですか?」
「嫌いじゃない、たまには悪くないな、こういうのも」
「ええ、私もです」
助けてもらった命を捨てるにはあまりに申し訳無くて、だから今日もAは毒を体に取り込む。いや、毒だと信じて煙を吸い込む。最低な自分が亡くなる運命がもう少しでも早く訪れることを願って。ただそれだけの理由だった。
けれど、本当にたまには心を休めるためにこうして居るのもいいかもしれない、とAは心の片隅で思った。
煙草らしくない甘さと煙草らしい苦さが、それぞれいつもとは違う人に吸われて、吐かれた煙が混ざり合う。不思議の国に、秘密の園にはあまりに似合わない煙はゆっくりと風に煽られるように溶けていった。
平行線の煙 end
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ななえ - 更新を、、、、、たのむ、続きが読みたいんだ(バタッ) (2015年12月26日 8時) (レス) id: 42f6409a50 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:山鳥口十 | 作成日時:2015年8月31日 5時