検索窓
今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:12,570 hit

平行線の煙 3 ページ4

「あっ、要らないなんて言ってないだろ」



今となっては、知りたかったんだと思う。吸血鬼だという遠い隣の男を、子供ながらに少しでも知りたかったんだと、思う。リリイが火を分けてくれようとしたが、Aは俺がやっても似合わないしな、と断って、ようやく見つかったライターで火を着けた。

リリイが言っていたように、Aの知る物とはだいぶ違う。吸い込んだ煙も吐いた煙も、甘い香りがした。隣でAのよく知る煙草を吸う男も、こんな甘い香りがする。ずっと香水かとも思っていたが、もしかするとリリイの甘い香りは煙草のなのかもな、とAは思った。



「……こんなのもあるんだな。甘い香りがする」

「嫌いですか?」

「嫌いじゃない、たまには悪くないな、こういうのも」

「ええ、私もです」



助けてもらった命を捨てるにはあまりに申し訳無くて、だから今日もAは毒を体に取り込む。いや、毒だと信じて煙を吸い込む。最低な自分が亡くなる運命がもう少しでも早く訪れることを願って。ただそれだけの理由だった。

けれど、本当にたまには心を休めるためにこうして居るのもいいかもしれない、とAは心の片隅で思った。

煙草らしくない甘さと煙草らしい苦さが、それぞれいつもとは違う人に吸われて、吐かれた煙が混ざり合う。不思議の国に、秘密の園にはあまりに似合わない煙はゆっくりと風に煽られるように溶けていった。





平行線の煙 end

8月31日→←平行線の煙 2



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.5/10 (26 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
8人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ななえ - 更新を、、、、、たのむ、続きが読みたいんだ(バタッ) (2015年12月26日 8時) (レス) id: 42f6409a50 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:山鳥口十 | 作成日時:2015年8月31日 5時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。