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その六、 ページ7

「椿くん、手」



なぜ壁を殴ったかなどには興味や意識すら向かずにAはヒビ入った壁と椿の手を見つめて、椿の手から血が流れていることに気づいた。Aが手を伸ばすので椿はAが頬に触れた時のことを思い返し、さっ、とその手を避けた。



「これくらい大丈夫だよ。吸血鬼だからね」

「そう?……治ってないけどなあ、」

「人間よりは治りが早いけどそんな一瞬では治らないよ。血があれば別だけどね」



Aは首を傾げてからぽん、と納得するように手を打つ。ヒビの入った壁から落ちた尖っている破片を拾って、手にそえると勢い良く引いた。当然、白く傷ひとつない手には一本赤い筋ができて血が流れ出てきた。

椿は目を見開いてその手首を握った。



「どうぞ、椿くん」

「…………何のつもり?」

「血があったら治るんでしょう?見てみたかったから」



Aは相変わらずにこにこと椿を見上げている。見てみたかったから、という好奇心だけで迷いなく自分の皮膚を裂いた。やっぱりこの子は可笑しい、とため息を吐きながら白い手に溜まった僅かな血を飲む椿。

Aはじぃ、と椿の手を見つめてみるみるうちに消えた傷あとを見て「不思議だなあ」と呟いた



「君、本当に人間?」

「椿くん、本当に吸血鬼なんだね。すぐに傷が治るのってなんだかワクワクする」



にこりと首を傾げてAは言った。ちりん、という鈴の音を聞きながら椿は血を舐めとり、手を離した。血液型で味の変化はないが、Aの血は好みだなあ、とふと考えた椿は名案を思いついた。



「A。僕と契約する気ない?」

「いいよ。」

「何か分かってないのに頷いたよね今。」

「うん。とりあえず私は衣食住が保証されるならいいかなあ、って」



椿は頷いて、とりあえずは主人から貰う物の調達を考えた。Aは物なんて巾着袋の学生証や少しのお金しか持っていないだろうし、まずは出かける必要がある。Aの手を握ろうとして、また凄まじい動悸を感じたので自分の手を見つめたあとで、やめた。

行くよ、と声をかけて歩き出す。うん、とにこにこ笑ったままでちりんちりん、と鈴の音を鳴らしながら椿の隣へと歩くA。音楽で会話を全く聞いていなかった桜哉だが、動いた気配は感じてヘッドフォンを外した。



「どこか行くんですか椿さん」

「ちょっと既成事実を作りにね。」


「…………はっ!?」

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ななえ - 何度読んでもやっぱり面白い!! この和やかな空気好きです!! (2015年12月26日 23時) (レス) id: 42f6409a50 (このIDを非表示/違反報告)
強欲 - 面白かったです!2部も頑張ってください! (2015年3月28日 18時) (レス) id: ec67facd63 (このIDを非表示/違反報告)
臨歌(プロフ) - 一部完結おめでとうございます!とても面白かったです、二部も楽しみに待ってますね! (2015年3月24日 16時) (レス) id: 71fa6fd779 (このIDを非表示/違反報告)
雪桜(プロフ) - わぁぁぁ!!凄い面白いっ…!貴方の文才分けて下さ((( 続き楽しみにしてますっ!!更新頑張って下さい!! (2015年3月22日 20時) (レス) id: 5321145ad2 (このIDを非表示/違反報告)
サキ(プロフ) - やばい。めっちゃ面白い。続き楽しみに待ってます! (2015年3月20日 23時) (レス) id: b9c63c61f9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:山鳥口十 | 作成日時:2015年3月18日 14時

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