その四七、 ページ48
「はい、椿くん」
もう主人の武器というよりか、ただの傘としてしか使っていない。一度だけ杖代わりに使ったこともあるが………。Aは開いた黒い傘を椿に手渡した。何時かの雨の日のように椿は苦笑を零しながら、その傘を受け取る。
「もう帰る？」
「もう少しだけ」
椿の差す傘ににこにこ笑いながら入ってAは返した。椿はその言葉を素直に嬉しく思った。心の中が温かい気がする、何時かのようにうるさいほどの苦しさではなく穏やかな温かさに椿は微笑んだ。椿ももう帰りたいかと聞かれれば、すぐにもう少しだけ、とそう答えていただろう。
「椿くんと居るとなんだかワクワクするなあ」
椿を見上げて楽しげににこりと笑う。椿は久々に心臓を掴まれるように呼吸が止まった。こうして時たまに平然と爆弾を落としてくるから困りものだ。
雪降る中で隣で微笑む少女が遠いものに見えた。
いくら主人と真祖契約で繋がった仲だとしても人間と吸血鬼、遠いのは当たり前のはずだ。
少し目をそらせば、瞬く間に過ぎていく時間の中で自分はまた一人になる。
『私は死ぬまで椿くんの傍にいるよ』
そう言って柔らかく優しく微笑んだAをふと、思い返した。
……傍に居れないのは自分のほうだ。そう思うと、何故か頬に冷たいものが伝った。
「何それ、わけわかんないんだけど……」
喉から零れたのは細々としたそんな情けない言葉。椿の声を聞いて、見上げたAは目を見開いていた。それでもそんな驚き顔は一瞬で、変わらずにこにこと笑い手を伸ばす。
ちりん、と鈴の音が鳴いた。
「大丈夫、大丈夫、泣かなくてもいいからね」
「……っ」
寄り添うことが出来る、と何時か椿に言った言葉をAは思い返した。
例えばこの武器(傘)はこうありたいとAの心理が思うものなのかもしれない。
20年前に神隠しに遭ったのは、こんな雪降る日のことだった。
自分は彼の主人で居よう、そうして死ぬまで傍に居よう。
彼が望む限り。
……ずっと、そう思っている。
神隠しにあったひとりぼっちの放浪少女は自分にそう誓った。
雪の降る中、黒い傘を差した二人は笑いあいながら道を歩く。
こうして何時までも傍に居られることを願って――――……
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ななえ - 何度読んでもやっぱり面白い！！ この和やかな空気好きです！！ (2015年12月26日 23時) (
レス) id: 42f6409a50 (このIDを非表示/違反報告)
強欲 - 面白かったです！2部も頑張ってください！ (2015年3月28日 18時) (レス) id: ec67facd63 (このIDを非表示/違反報告)
臨歌(プロフ) - 一部完結おめでとうございます！とても面白かったです、二部も楽しみに待ってますね！ (2015年3月24日 16時) (レス) id: 71fa6fd779 (このIDを非表示/違反報告)
雪桜(プロフ) - わぁぁぁ！！凄い面白いっ…！貴方の文才分けて下さ((( 続き楽しみにしてますっ！！更新頑張って下さい！！ (2015年3月22日 20時) (レス) id: 5321145ad2 (このIDを非表示/違反報告)
サキ(プロフ) - やばい。めっちゃ面白い。続き楽しみに待ってます！ (2015年3月20日 23時) (レス) id: b9c63c61f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：山鳥口十 | 作成日時：2015年3月18日 14時
