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その四二、 ページ43

あの日、僕があの神社に行ったことに特に理由はなかった。



ちりん、ちりん、と。



ただ何となく、聞こえるような気のする小さな鈴の音を探して寂れた静かな神社へと着いた。参拝客もいない、誰も知らないような神社をぐるりと見回し、椿は肩を下した。



「どうしてこんなところに来ちゃったんだろう」



帰ろうと、歩いてきた道を引き返すために振り返る。ちりん、と何処からか今度は確かに鈴の音が聞こえて、椿は目を見開いた。何もないところから、一人の人間の少女が現れた。つい先程まで気配もなかったというのに、椿の目の前に突然少女は現れたのだ。

少女は目の前の椿が見えていないように、不思議そうに辺りを見回して最後に椿の目を真っ直ぐと見た。



「あのう、すみません。ここは何処でしょうか」



にこにこと笑い、首を傾げて少女は聞く。

ちりん、と聞こえた音は少女の後ろ髪につけられた髪飾りの鈴から聞こえた。少女は変わらずにこにこと、真っ直ぐに椿の目を見つめていた。

吸血鬼である椿とは真逆の真っ黒な瞳は澄んでいた。

人間相手だというのに目を離せなくなって、心臓はうるさくなって、何故かくるしくなって……。









「……思えば一目惚れってやつだったのかなぁ……」



今となっては少し懐かしい出会いの時を思い返しながら椿は隣に座るAを見て、苦笑するように小さな声で呟いた。その呟きはAには聞こえていないようでベルキアと買ってきた新商品のダッツを食べている。

主人として以上に僕はAが好きなんだ、と思ってしまえば早いもので、あれだけ悩んでいたことが馬鹿みたいに椿には感じた。こうしてAが傍にいる、それだけでとても満たされるような温かい気持ちになる。



「A、その新作僕にも分けてよ」

「いいよ、どうぞ椿くん」

「あはっ、ありがとう」


「あー!ボクもボクもォ〜!僕とも交換しよォよ〜」



にこにこと首を傾げるようにして笑い、Aは椿の口にダッツを運んだ。それを見たベルキアが自分のダッツを掲げて言い出す。Aはどうぞベルくんと笑い、ベルキアにダッツを食べさせようとしたが、椿はだめ。とさらうようにしてスプーンにのったダッツを平らげた。



「これは僕のだからだめだよ、ベルキア」



椿はにこりと笑った。

Aは、?と疑問符を浮かべながらもにこにこと首を傾げて、平和だなあ……とふと思ったように呟いた。

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ななえ - 何度読んでもやっぱり面白い!! この和やかな空気好きです!! (2015年12月26日 23時) (レス) id: 42f6409a50 (このIDを非表示/違反報告)
強欲 - 面白かったです!2部も頑張ってください! (2015年3月28日 18時) (レス) id: ec67facd63 (このIDを非表示/違反報告)
臨歌(プロフ) - 一部完結おめでとうございます!とても面白かったです、二部も楽しみに待ってますね! (2015年3月24日 16時) (レス) id: 71fa6fd779 (このIDを非表示/違反報告)
雪桜(プロフ) - わぁぁぁ!!凄い面白いっ…!貴方の文才分けて下さ((( 続き楽しみにしてますっ!!更新頑張って下さい!! (2015年3月22日 20時) (レス) id: 5321145ad2 (このIDを非表示/違反報告)
サキ(プロフ) - やばい。めっちゃ面白い。続き楽しみに待ってます! (2015年3月20日 23時) (レス) id: b9c63c61f9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:山鳥口十 | 作成日時:2015年3月18日 14時

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