その一五二、 ページ10
「……怒鳴って悪い、」
「ううん。気にしてないよ」
数秒経って冷静さを取り戻したのか、弓景は歯切れ悪くも謝った。Aに怒鳴るのは筋違いだと思いながらも、あの男に対して、むかむかとこみ上げる嫌悪感はどうにもならない。気まずそうに目を逸らす弓景にAは言葉を探した。
弓景の怒りは恐らく心配から来ているのだろう、と。そして塔間にあそこまで露骨な敵意を向けるのは吊戯が関係しているのだろう、と。御国や塔間の話から察する程度にはAは思慮深い。
「副支部長さんには怪我の調子を聞かれて、自己紹介を受けて、謝罪をされただけだよ」
「謝罪……？」
アイツが何で、と後ろに付きそうな程、訝しげな表情で弓景はAの顔を見る。Aが自身の包帯に包まれた両手にゆっくりと視線を向ける。それに続くように弓景もAの手を見た。今日の試作品テストに同行させたのは塔間らしい、とAは言葉を選びながら言う。
弓景は目を見開きながら、そんな話は聞いていない、と自身の記憶を漁りながらも小さく呟いた。すぐに険しい表情になって行く弓景だったが、ふふ、という控えめな笑い声に再びAの方を見る。
「なんだか今日はよく怒られる日だなあ、って」
「……なーにが、よく怒られる日だな〜、だ！ ボケ鈴っ」
「だって昔はあんまり怒られた事なかったから」
にこにこと呑気に笑っているAの額にデコピンでも叩き込んでやろうかと思った弓景だったが、一応は病人である事を思い出して思い留まる。元来、鈴谷Aは放浪癖さえ除けば、運動神経も良く頭脳明晰で成績も申し分ない優等生であり、所謂いい子だった。
「怒られた事くらいあんだろ。普通に。俺なんてガキの頃我が儘言うなって、しょっちゅう怒られてたっつーの」
「んー……我が儘かあ、」
子供の頃から我が儘を言った事もない、無欲な人間で……。放浪癖に至っても二、三度怒られたがそれ以後は皆慣れたのか、呆れられる事はあっても毎度怒られる事は無くなってしまった。我が儘が好まれる物ではないという認識だけがAにはあった。
本気で悩んでいる様子に弓景は、面倒くさそうに深いため息を吐きながら、あのな？ とこの時ばかりは、子供に教える大人の様にAに言う。
「男は我が儘くらい言われてた方が安心すんだよ」
「そういうもの？」
「そういうもんだ」
まあ、我が儘も限度によるけどな、と続けられた言葉にAはそっか、と笑った。
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ゆき(プロフ) - とても素敵な作品ですね！更新頑張ってください！ (2017年8月2日 11時) (
レス) id: c2fac8b8e1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうみん - とても面白いです！！！続きを待ってます！！ (2017年7月21日 20時) (レス) id: 63ea325151 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうみん - とても面白いです！！！続きを待ってます！！ (2017年7月21日 20時) (レス) id: 63ea325151 (このIDを非表示/違反報告)
ナガキ - とても面白かったです！続きを期待します。 (2016年5月6日 21時) (レス) id: c8f811e1da (このIDを非表示/違反報告)
ナガキ - 今日初めて貴方様の作品を拝見させて頂きました。 (2016年5月6日 21時) (レス) id: c8f811e1da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：山鳥口十 | 作成日時：2016年3月18日 21時
