その一四七、 ページ5
「耶節先生。鈴の怪我は、」
「出血は酷かったが幸い、神経はどこも傷付いてなかった。ちゃんと飯食って、しっかり睡眠取らせて、療養させりゃ大丈夫だ」
髭を携えた白衣の医師はそう言いながら、今しがた自分が出てきた部屋を示した。一番行動が早かったのは吊戯で、盾一郎が様子を聞いている間に部屋の中へと飛び込んで行った。一目散に、彼女が腰かけているパイプベッドに駆け寄る吊戯は酷く怯えた表情をしていて。
ごめんなさい、オレが気づいてれば、と吊戯が泣きそうな顔で謝ろうとする一方で、肘辺りまで手を包帯に纏われた怪我人である当人は一瞬驚いたように目を瞬かせながらも、何一つ変わらぬ、にこにことした笑みを浮かべ、気の抜けた声で言った。
「大げさだなあ」
「大げさじゃない、」
「つるぎくん。私はほら、この通り大丈夫だよ」
「ッ、……鈴姉ちゃんの大丈夫は信用出来ないよ!!」
自分自身の手を握りしめて怒鳴った吊戯の言葉は、ある種怒鳴ったというより、主張を訴える叫びに近かった。迂闊に近寄れない雰囲気に扉の傍で様子を覗いていた弓景達が流石に怒鳴るのはと思い、諫める為、吊戯、と呼びかけようとした時だった。
吊戯の言葉に困ったなあ、という様に一度天井に視線を彷徨わせたAはその後、つるぎくん、と呼んだ。
「心配してくれたんだね、ありがとう。」
「……」
「ごめんね、不謹慎かもしれないけど私、なんだか凄く嬉しいって思ってるみたい」
にこにこと笑いながら、Aは固く握りしめられた吊戯の手を包み込んだ。心配させた事は申し訳ないと思いつつも、心の中でどこか温かな事だと感じてしまっている気がする。それはいけない事だと思うけれど、他に何を言えばいいのか分からなくて、Aはそう言った。
「鈴姉ちゃん、本当に大丈夫？ 無理してない？ 痛く、ない？」
「私よりつるぎくんの方が辛そうに見えるよ。」
Aはにこにこと笑ったままに、真っすぐと吊戯を見上げていた。強張っていた吊戯の手はAの手の中でゆっくりと力が抜けていき、吊戯はもう片方の自分の手でごしごしと自分の目元を擦った。そしてへらりと口元を緩めて、それこそ気のせいだよ、と笑ってみせた。
「はっは！ ごめんよ鈴姉ちゃん。怒鳴っちゃって、……びっくりした？」
「うん。」
そして漸く空気となりかけていた弓景と盾一郎は、安堵のため息を吐きながら部屋の中へと足を踏み入れ、各々Aに言葉をかけた。
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ゆき(プロフ) - とても素敵な作品ですね！更新頑張ってください！ (2017年8月2日 11時) (
レス) id: c2fac8b8e1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうみん - とても面白いです！！！続きを待ってます！！ (2017年7月21日 20時) (レス) id: 63ea325151 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうみん - とても面白いです！！！続きを待ってます！！ (2017年7月21日 20時) (レス) id: 63ea325151 (このIDを非表示/違反報告)
ナガキ - とても面白かったです！続きを期待します。 (2016年5月6日 21時) (レス) id: c8f811e1da (このIDを非表示/違反報告)
ナガキ - 今日初めて貴方様の作品を拝見させて頂きました。 (2016年5月6日 21時) (レス) id: c8f811e1da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：山鳥口十 | 作成日時：2016年3月18日 21時
