叶わなくたっていい[レイ] ページ1
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「……それじゃあみんな、またね」
未だ着なれない正装に身を包んだ私は、そっと別れの言葉を告げる。
嬉しいことに私がここから出ていくことを寂しがってくれている子ばかりで、みんな揃って目に涙をためていた。
いつも一緒だったエマやノーマンも、今にも泣きそうだ。
11年間このハウスで暮らしていたけれど、まさか自分が年長者の先人を切ることになるとは思わなかった。
手に持った荷物はずっしり重く、もうここに戻ってくることはないのだと教えられる。
エマとノーマンの近くに立つレイは俯いたままこちらに顔を向けることはなかった。
やがてママに手を引かれ扉をくぐる。やっぱり寂しいし辛かったけど、涙は流さないようにした。
力なく手を振る私は、見えなくなるそのときまでレイを見つめていた。
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永遠など、はじめからなかった。
「よかったの？レイに何も言わなくて」
「……何を言ってるの、ママ。私はもう後悔なんてないよ」
「ふふ、威張らなくていいのに」
ずっと好きだったんだ。
いつからとか、どうしてとかじゃなくて、気づけば好きでいたし今更その恋に理由なんて求めてはいけないのだと思う。
でもその想い以上に、幸せな日常を壊したくなかった。変わらないでいたかった。
だからこれはきっと胸に秘めたままでいるのが最善のはずだ。
見送りのとき彼がこちらを向いてくれなかったのは悲しかったけど、全部全部、思い出にしてやるんだ。
それも含めて、私はレイに逢えてよかったって心から思っている。
「ママ、私わかってるよ。ちゃんと……」
だって、私は最年長だもんね？
その声は嫌に弱々しくて、無理して笑えば視界がぼやけていく。
わずかにあった後悔は尾を引いていた。その証拠に情けない嗚咽が漏れる。
戻らないことをわかっていて、果たしてこの片想いを胸にしまって生きていけるのだろうか。
変わりたくないと願ったし、叶ってほしいなんて願ったこともない。ただ一途に想っていて、それを彼は永遠に知らなくてもいいと思っていただけだった。
でも……そうだな。2度と来ない日常なら、最後くらい我が儘でいても許されるかな。
叶わなくても、嫌われても、私は言わなきゃいけないのかもしれない。
繋がれていた手を離し、私は来た道を一心に辿った。
困ったように笑う彼の顔が安易に想像できて、不思議なことに涙は止まっていたんだ。
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〈揺るぎない想いと揺らいだ決意の話〉
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作者名：月ノ瀬 | 作成日時：2019年6月8日 0時
