さくらこ’s 短編集 (ページ29)

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びっくりして顔を見上げると、ぶつかったのは変わらない優しい瞳。

『この前は悪かったよ』

「…え」

『俺も仕事のことでちょっとピリピリしてたし。あんま構ってやれてなかったし』

「和くん…」

『仲直りもしないでほっといたけど、別にAのこと嫌いになったわけじゃないから』

もうこんな無茶するなよ、って言う和くんに、私はこくんと頷いた。

「…私も」

私もこの前はごめん、と喋りかけたら。

シャーッとカーテンが開く音がして、看護師さんが姿を見せた。

「あれ、え、二宮先生？」

ベッドに座って手を握ったままの和くんを見て、目を丸くしてる。

『あー点滴終わったね。じゃあ君あとよろしく』

和くんは何事もないかのように手を離して立ち上がった。

そのまま部屋を出て行こうとした和くんはピタッと止まって、「そうだ、こいつに職員駐車場の場所教えといてくれる？」と看護師さんに言った。

「え？」

『頼んだよ』

「あ、はい」

戸惑い顔の看護師さんが返事をすると、和くんは今度は私に目を向けた。

『全部終わったらそこ来て』

「え、なん…」

『いいから。分かった？』

「…はい」

じゃ、と言って和くんが出て行く。

一瞬の間の後、「え？も、もしかして、二宮先生の彼女さんとかですか！？」と看護師さんが声を上げた。

「、あ、えと…はい」

「ほんとですか！わ、彼女いたんだ二宮先生」

「え？」

「二宮先生、看護師の間で割と人気なんですよ。いつも彼女いるいないで話題になってるんです」

「え…」

「あっ…ごめんなさい、私何話してるんだろ。点滴、外しますね」

自分の仕事を思い出したように、慌てて手を動かす看護師さん。

和くん、人気あるんだ…

胸の奥がちくっとした。