さくらこ’s 短編集 (ページ28)

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え、何これ…幻覚？

頭が朦朧として幻覚見えちゃった？

その幻覚をぼんやり見つめてたら。

『こんなとこで何やってんの』

口が動いて、聞き慣れた声が耳に届いた。

「…しゃべった」

『はい？風邪引いて頭までおかしくなっちゃった？』

近づいてきて、はっと笑う。

「え…え、かず、くん…」

『和くんですよ』

「…っ、なんで」

『なんでって、ここ俺が働いてる病院なんだからいて当たり前でしょ』

「、でも…」

なんで私が来てるって分かったの？

『たまたま廊下歩いてたらお前の名前呼ばれてんの聞こえて。同姓同名かと思ったけど、ふらふらしたお前が見えたから』

「…っ」

『急ぎの用件だけささっと終わらせて来てやりましたよ』

偉そうな言葉なのに、私を見る目は優しい。

私は和くんを見つけられなかったけど、和くんは私に気づいてくれたんだね。

『で、こんなとこで何やってるんですか、お嬢さん』

「…、点滴」

『それくらい分かる』

「…」

『あなたの家から遠いここまで来て、風邪悪化させたいの？』

「っ、だって…」

『だって？』

「、…」

会いたかったから。

ただその一言が言えない。

お互いに素直じゃない私たち。

この前も思ってもないことを口走って喧嘩してしまった。

黙り込んだ私に何を思ったのか、和くんははぁ、とため息をついた。

胸がズキンと痛む。

泣きそうになってたら、不意に和くんがベッドに腰掛けて、放り出していた私の手をきゅっと握った。