さくらこ’s 短編集 (ページ21)

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言えなかった。

好きです、なんて。

今伝えてもきっと先生は私の気持ちには応えてくれない。

そう思ったら、喉まで出かかった言葉は飲み込んでしまった。

智「…お願い？」

振り返った先生が私を不思議そうに見る。

「、はい」

智「…」

何も言わずただじっと向けられる視線に耐え切れず、目を逸らして大野先生にもらったばかりの御守りをぎゅっと握りしめた。

智「…ふふ、」

微かな笑い声に顔を上げる。

「え…」

智「いいよ」

智「何でも聞いてあげる」

「…何でも」

智「うん、何でも」

ほんとに？

どんなお願いでも？

頭の中にパッと浮かんだお願いは、無理だと断られる可能性が高いもの。

何でもって言っても、こんなお願いはさすがに…

「…っ、」

俯いてた頭に、ぽんと乗っかった柔らかい感触。

いつの間にか目の前に来てた大野先生が、私の頭に手を乗せていた。

智「何でも聞くから頑張れ」

優しく撫でたその手はすぐに離れて、またキャンバスの前に戻った大野先生。

「っ、」

どくんどくん。

心臓の音がうるさいくらいに響く。

「…はい、頑張ります、」

智「ふふ、うん」

私がいつまでも詰められない距離を、大野先生は簡単に縮める。

私の気持ちに気づいてるのか気づいてないのか。

どこか余裕そうな大野先生に焦ってしまうけれど。

ちゃんと聞いてくださいね、先生。