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「うそ、なんで、」
「変わってないね。ずっと、俺が好きなAちゃんのままだ」
何年も前に諦めた彼がそこにいた。
あのときとは顔つきも変わっていて。
…ただ、彼のあたたかさは変わっていなくて。
どうしてうれしいのに、こんなにもくるしいんだろう。
会いたかったよ、すごく。
「ずっと、会いたかった」
「アイドルは?」
声が震えてうまく話せない。
こんな質問するまでもなく、彼の活躍ぶりは知っていた。
初めは彼の情報を知らないふりをして。
だけどもうそんなことできないくらい彼らは人気になった。
「もう一回だけ、もう一回だけ、チャンスくれへんかな」
「その顔、ずるい」
「Aちゃんにばかって言われて心入れ替えたよ。Aちゃんと会うときに胸を張っていられるように」
「胸、はれてるの?」
「うん。今の立場で満足してるわけちゃうし、これからももっと上を目指していくよ」
私の手を握る彼。
「アイドルとしてまだ1人前じゃないけど、これから先の俺の人生にはAちゃんが必要やねん」
あの頃とは違う彼の目。
いつの間にかおっきくなったんだね。
「私も会いたかった。また、会いたかった」
もう一度その手を握ってもいいのなら。
私が必要だと言ってくれるのなら。
「私なんかでいいの?一般人の私なんかで」
「Aちゃんじゃないといや。
ねえ、Aちゃん。もう一度、俺の彼女になってくれませんか。」
「私だって、ひーくんじゃないとやだ」
思わず彼に飛びつけば、よろけながらも受け止めてくれて。
私、こんなにもしあわせでいいの?
私たち、もう一度、恋をしよう。
しあわせな、恋をしよう。
認めてもらえるように、少しずつ少しずつ一緒に歩いていこう。
この手の中のぬくもりを抱きしめて。
永遠を夢みてもいいかな。
「だいすき」
寒空の下で、私たちの空白の恋が再び動き始めた。
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作者名:山桃 | 作成日時:2024年1月12日 16時