･ ページ41
Asahi side
彼女はいつだってずるい。
もう俺に会う気がないのなら「愛してる」なんて言わないでほしかった。
キスなんてしないでほしかった。
好きなのは俺だけなのだと勘違いしていた。
彼女も俺と同じように好きでいてくれた。
だからこそ、この決断をしたのだ。
彼女は強かった。
優しくて、あまりにもきれいで。
彼女にもう会えなくなるのだと思うと胸が痛くて、つらくて、心に穴が空いたようで。
心に空いた穴を彼女との思い出で埋めようとしたけれどできなかった。
彼女の存在は俺にとってあまりにも大きすぎた。
彼女の腕を掴むことすらできず、彼女の匂いが残るこの場所で俺は動けなかった。
涙が止まらなかった。
いつだって俺の記憶の中に、胸の中に彼女がいた。
いつか彼女に聞かせたくて彼女のための歌を作った。
それが今日のコンサートで歌ったOrangeだった。
彼女の隣にずっといたいという俺の未来は呆気なく散った。
俺はどうすればいい？
この先、君のいない未来をどうやって過ごせばいい？
会いたいと願っても会うことすら叶わない。
君は意地悪で、ずるいね。
俺の幸せを願ってくれた彼女のために、俺も彼女の幸せを願おう。
彼女のために世界一のアイドルになろう。
またいつか、どこかで君と会ったときに、胸を張っていられるように。
最後に一言だけ「好きだ」と伝えたかった。
だけどそれもすべて君が俺のために望んだ幸せの妨げになってしまうだろうから胸の中に閉まっておくよ。
『…アサヒ』
『迷惑かけてすみません。
俺たくさん頑張って、今度こそAちゃんに胸を張って会えるような人になります。ほんとうに』
ずるいなあ、君は。
Aちゃんを思い出すだけでどうして涙が止まらないんだろう。
前を向いて、笑って、それだけでAちゃんが笑ってくれるのなら。
君が幸せになるのなら、俺は君のためにアイドルになる。
Aちゃん、どうか幸せになって。
愛してるよ。
･
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 293人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：山桃 | 作成日時：2024年1月12日 16時
