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「なんで意地悪言うためにここに来たん?」
『なんのこと?』
「なんで縁を切ろうとするん?」
『わからない?』
「もしかして、本当に、」
『そうだよ、終わりにするよ。』
口の中が乾く。
体の体温が指先から奪われて震えが止まらない。
俺の恐れていたこと。
世界で一番叶えたくなかったこと。
彼女が嘘をつく人ではないと知っているから、この言葉も本当なのだと理解せざるを得なかった。
信じたくない。
理解したくない。
俺は君が好きなのに、君はそうじゃないのかな。
『なりたいもののためには何かを手放さないといけないの。』
「Aちゃんを手放せって?」
『うん。君の夢に私は必要ない』
「なんで?俺、Aちゃんのために頑張った。喜ばせたくて、いい報告したくて、がむしゃらに突っ走ってん」
『私が君の隣にいなくても君はアイドルになったじゃん』
「だから、それはAちゃんがいたからで!」
『違うよ』
まっすぐ俺を見つめるAちゃんに、俺もただ、彼女を見つめ返すことしかできなかった。
『君は私を言い訳に使ってるだけ』
彼女の言葉は鋭く俺の胸を切り裂いた。
ずるずると渦の中へ俺を引きずり込む。
『女がいるアイドルにお金を落としてくれるファンなんていないよ』
震える唇で、情けない声で、俺は彼女になにを伝えたいんだろう。
好き?離れたくない?そうじゃない?……どれも違った。
ただ、俺が弱いだけだった。
Aちゃんをずっと守ってきたつもりだった。
でも、実際は違ったんだね。
本当はAちゃんが俺を守ってくれていた。
彼女のほうが俺よりもずっと強かった。
その事実に気付いたとき、俺は泣いた。
気持ちを固めて俺に会いに来たAちゃん。
なら、俺は?
Aちゃんと離れるのも、会えなくなるのも、連絡も取れなくなることが怖くて、なにも考えていなかった。
こんな俺はアイドル失格なのかもしれない。
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作者名:山桃 | 作成日時:2024年1月12日 16時