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突如耳に入って来た聞きなれた言葉なのに理解するのに時間がかかった。
「なんで、」
部屋の空気が変わった。
みんなが驚く中、ジフニヒョンだけが彼女が韓国語を話せることを知っているようだった。
『びっくりさせてごめんね。
今日は私の気持ちとか決意とか聞いてほしくて。メンバーさんにも。』
「どういうこと?」
『黙っていてごめんね、父が韓国人なの。
でもね、いい思い出がなくて。』
「日本に?」
『東京から引っ越してきたでしょ、私。そこで私たちは疎まれてたの。いわゆる反韓思想ってやつ?』
「…え」
『君はそんなことする人じゃないってわかっていたけど、やっぱり怖くて言えなかった。』
彼女の口から出てくる真実に開いた口が塞がらない。
俺は彼女についてなにも知らなかったらしい。
『で、本題にはいるんだけど。
…私たち会うのも連絡するのもやめよう。』
言葉が出なかった。頭を何かで殴られたような強い衝撃が俺の思考回路を遮断した。
何も考えられなかった。
理解したくなかった。
だけど、ただ、俺と彼女が離れなければならないという事実がそこにあった。
「なんで急に?事務所の人になんか言われたん?」
『違うよ。…ただ、そうしなきゃ。』
「俺、Aちゃんがおらな生きていかれへん」
『嘘ばっかり。私がいなくても君はちゃんとやっていけるでしょ』
「いやや」
『嫌じゃありません。君はできる子だよ。
今も夢を叶えてる。自分の力でなりたかったものになれてるでしょ?』
「実力なんかまるでないよ。事務所の人に呼び戻されたけど、それは俺の実力じゃない。」
『君を呼び戻すほどのメリットがあったってことだよ。君は期待されたんだよ。』
淡々と言葉を紡ぐ彼女は以前とは違った。
冷たく突き放すような話し方だった。
そんなに俺が嫌になってしまった?
Aちゃんは理由もなく人を嫌いになる人じゃないやん。
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作者名:山桃 | 作成日時:2024年1月12日 16時