病 (ページ32)

今日:109 hit、昨日:31 hit、合計:45,765 hit

･ページ32

･

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

〝今日もオレンジに染っていく君を相変わらず僕は

名残惜しく思いながら家に帰ると思う

僕はもっと君と一緒にいたいのに

日が暮れても待てばまた登るように

明日も会いたいよ〟

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

「泣かないで」

申し訳なさそうに眉を下げる彼を見ても私の涙は止まらなかった。

どれだけ考えても、わからなかった。

でも、たぶん、きっと。
私は彼と別れることが惜しくて、つらくて、避けたいのだと思う。

ステージに立つ彼は輝いていて、夢を掴んだ彼のそばにいたいなんて、あまりにもおこがましい。

ファンの方も楽しそうで、幸せそうに彼らを見つめている。
アイドルである彼らをすごく愛していることが目に見えるほど。

そんななか、私だけがこの事実を受け止められずにいた。
彼がアイドルであるという事実を。

信じたくなくて、夢を見たままでいたくて、目を背けたかった。

彼の夢を応援すべきなのに。
できなかった。したくなかった。

あのとき引き止めておけばよかったと後悔した。

コンサートも終盤、客席まで降りてきた彼が私のところへやってきた。

近くに来たらバレちゃうよ、なんて思っても彼は気づかない。

隣の彼女は『うわあ、なんてかっこいいの！』と興奮しているし、周りの人も羨ましそうに私を見る。

「な、なに、」

『笑顔がいちばん、かわいいよ』

彼の手の中にあったタオルがぽん、と放り投げられた。

目を白黒させて戸惑っていれば、隣の彼女が私に『確定ペンサですよ！』なんて言うから私は彼の意図がしりたかった。

私と彼が知り合いだとばれないようにしてくれたんだろうけど、他のファンにもこんなことするの？

…アイドル怖あ。

そんなアイドルの彼を目の当たりにして萎縮する。

そうして会場の熱気は冷めないまま、コンサートは終了した。

･