病 (ページ21)

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『…私と彼は幼馴染みで、家も隣でお互いの部屋を行き来できるくらいの距離にあるんです。彼は昔からよく私を気にかけてくれましたし、そんな優しい彼に惹かれるのはそう時間はかからなくて。
ただ、付き合おう、なんて言葉はなくなんとなくお互いの気持ちを知って付き合いはじめました。』

『…別れた理由は？』

『彼が、アイドルになりたいって。
今までにないくらいきらきらした目で私をまっすぐ見つめたんです。…私、嫌われたくなかったから、頑張れっていいました。』

『そっか』

『彼と別れてからもいろいろな人とお付き合いしたけれど、どれもうまくいかなかった。』

誰かの冷たさに触れるたびに、彼の優しさを思い出してつらくなった。

いつまでも誰かと彼の優しさをくらべてばかりで、みんなみんな私から離れていった。

私が頑張っても、心を病んでも、私への世間の対応は変わるわけもなくて、ただ、なんとか前を向いてやっていかなくちゃだめで。

私の前からいなくなった彼を想って、彼に抱きしめてほしくて、からっぽになるくらい泣いたのに。

それでも、涙はつきなかった。

『…わかってるんです、ほんとうは。離れないといけないって。
それでも、私はずるい人間だから今のこの状況に甘えてしまうんです。』

目の奥が熱くなる。
じわじわと熱いものがこみ上げてくる。

…やだなあ。

涙はあのときに封印したはずなのに。

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