贖罪 ２ ページ49
伊野尾「僕の……せい？僕の……僕が…………」
伊野尾は力なく肩を落とし両手を床につく。
伊野尾「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ〜！！」
やり場のない絶望と後悔が悲痛な叫びとなって吐き出され、その場に突っ伏した。
黒部川「そうだよ。君がいい子だったらみんな幸せに暮らせたのに。君が家族の命を奪ったんだ。」
黒部川は、体を小さく丸めてもがくように呼吸をする伊野尾を冷たい目で見下す。
伊野尾「ごめんなさい………ごめんなさい………」
涙を流しパニック状態の伊野尾。
黒部川はふっと口元を緩める。
そして、今度は慈愛にみちた表情を浮かべると伊野尾を優しく抱きしめた。
黒部川「可哀想に。こんなに震えて。大丈夫だ。」
黒部川は伊野尾の頭を撫でながら耳元で囁く。
黒部川「罪を犯したら贖罪が必要だよ。」
伊野尾「しょく…ざい…？」
黒部川「そう。贖罪。罪滅ぼしだよ。」
黒部川は胸にもたれている伊野尾の体をきちんと起こさせ、目と目をしっかりと合わせる。
黒部川「君が家族の命を奪ったんだから、君はその命を持って償う必要がある。」
伊野尾「どうやって………」
伊野尾の真っ赤に腫らした目は、黒部川に救いを求めた。
いつも自分を導く助言をしてくれる黒部川。
こんな状況にしたのは黒部川だと分かっているのに、すがるように黒部川の言葉を大人しく待っている。
精神的に追い詰められた者に、事の善悪の判断なんてできるはずがない……。
ただ求めるのは救いだけ………。
そんな伊野尾につけ込むように黒部川は続ける。
黒部川「ここに薬がある。」
ニコりと微笑む黒部川はスーツの内ポケットから高さ５センチほどの小瓶を摘むように取り出した。
伊野尾は震える瞳で不思議に小瓶を見つめる。
黒部川「伊野尾君。新薬の研究にはね、人柱が必要なんだよ。」
伊野尾「……………………」
伊野尾は黙ったまま、ゆっくりと小瓶と黒部川の目を交互に見つめる。
黒部川「そうだ。さすが、頭のいい子だ。」
黒部川は満足そうに優しく伊野尾の頭を撫でる。
伊野尾「これを…飲めば…………」
黒部川「君がその体と命をかけて新薬の開発に携わるんだ。素晴らしいことだよ。君のおかけで何万人、いや、何千万、何億の人の命が救われることになる。これ以上ない償いだと思わないか？」
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作者名：サツキ | 作成日時：2023年11月7日 19時
