絶望 （暴 表現有り） ページ46
時刻は夜中の１時を回ったところだ。
伊野尾はその夜、なかなか眠れなかった。
酷く自分が悪いモノのように感じる。
両親に心配をかけ悲しませた………
申し訳ない気持ちで胸が潰される………
黒部川に体を弄ばれた………
それを警察とはいえ、他人に話すのか………
写真も動画も撮られてる………
世間にバレて広まったらどうしよう…………
怖い…………
怖い………………
怖い……………………
２階の自室のベットの上でガタガタと体を震わせ、膝を抱えて座っている。
１階の居間から人の気配と微かな話し声がする。
恐らく両親も起きているのだろう。
伊野尾は顔を腕に押しあてながら、ぐっと爪を立てて左の手の甲を掴む。
伊野尾「ぐぅう゛ぅぅっ………」
やり場の無い気持ちを自傷という行為で締めつける。
その時だった。
ガシャンッ
硝子が割れる音がする。
ハッと我に返った伊野尾が顔を上げる。
１階が騒がしくなる。
父親の怒号。
母親の悲痛な叫び。
家具が倒れる音。
伊野尾「ヤッ……ヤダ………嘘だ………どうして……………」
震える唇で呟き、立ち上がろうとするが、腰が抜けてしまって足に上手く力が入らずベットから転げ落ちる。
確証はない。
確証は無いが、絶対に黒部川の仕業だ。
あきらかに１階で何か良くないことが起きている。
両親の身が危険だ。
助けに行かなくちゃ！
僕のせいだ……
助けに……
四つん這いになり、這うようにドアまで来たときだった。
隣の部屋の扉が勢いよく開く音。
「お父さん！お母さん！」
妹が叫ぶように両親を呼びながら階段を駆け下りる気配。
伊野尾「ダメだ…………くそっ！！」
伊野尾はもつれる足を必死で前に出し、１階に急ぐ。
しかし、階段の途中で足を踏み外し転げ落ち、１階の廊下に体を強く打ち付けてしまった。
伊野尾「いっつぅ………」
痛む頭を右手で押さえ、顔をしかめながら上げる。
ベチャッ……
手が濡れている………
伊野尾「へっ？」
恐る恐るゆっくりと自分の手を確認する。
伊野尾「ひっ……！」
真っ赤染まった右手。
自分の血？
違う。
顔を上げた伊野尾の目に飛び込んだ光景が物語る。
目の前に横たわる母親。
半分だけ見開いた目には、すでに光を宿していない。
服を赤く染め、床にはおびただしい血溜まり。
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作者名：サツキ | 作成日時：2023年11月7日 19時
