過去の話し ４ ページ41
黒部川が伊野尾を連れて訪れたのは、古民家をお洒落に改装した割烹料理屋だった。
ここのお店も顔馴染みのお店らしく、黒部川は右手を軽くあげながら店に入っていく。
すると、４０代ぐらいの女将さんらしき和装姿の綺麗な女性が「お待ち申し上げておりました。」とにこやかに一番奥のカウンターの席まで案内をしてくれた。
伊野尾は黒部川の後を必死について行く。
入口からカウンター席までほんの数メートルだ。
はぐれるわけはない。
でも、その数メートルがとても遠く感じる。
黒部川にピッタリとくっついていないと、こんなお洒落で格式の高そうなお店に怖気づいて動けなくなりそうだから。
黒部川にいろいろなお店に連れてきてもらうが、やはり毎度のこと緊張する。
1人では絶対に来ないお店ばかりだ。
いや、家族とだって、友人とだって絶対に来ない。
黒部川「和食が好きって言ってたからね。ここの煮物、美味しんだよ。」
黒部川がニコニコしながら借りてきた猫のように縮こまっている伊野尾に話しかける。
カウンターの中から５０代ぐらいの恰幅の良い大将が照れながら
大将「いつもご贔屓にありがとうございます。今日はまたえらく可愛らしいお連れさんですね。」
と、料理を仕込みながら話しかけてくる。
黒部川「はははっ。可愛いでしょ？美味しいものいっぱい食べさせてやってよ。」
大将「よろんでっ。」
出された料理はどれも絶品！！
伊野尾は煮物を一口頬張ると「うぅ〜ん♡」と顔をほころばせる。
その様子を黒部川は微笑ましそうに目を細めて眺めている。
ひと通り美味しいものを食べて落ち着いたころ、黒部川が不意に伊野尾に聞いた。
黒部川「ところで、伊野尾君は今後の進度は決まってるの？」
伊野尾「う〜ん…。実は悩んでいて…建築の知識を活かせる仕事で、なんか…こう…みんなが安心して過ごせる場所を作りたいっていう漠然な感じで…」
珍しく話しをまとめられない。
今日は珍しく日本酒を呑んだからかもしれない。
呑みやすいスッキリとした味の日本酒。
そしてお店の雰囲気にのまれてグイグイ呑んでしまった。
黒部川「建築？別に学科にとらわれることはないよ。うちに来ないかい？」
伊野尾「えっ？製薬会社ですよね。僕は薬の知識なんて何もないですよ〜(笑)」
黒部川「なくてもいいんだよ。仕事なんていくらでもある。」
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作者名：サツキ | 作成日時：2023年11月7日 19時
