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過去の話し　２ページ39

伊野尾は始めは、オープンしたてで色々あるんだろうなぁとレジから薬局の薬剤師と談笑する黒部川の姿を眺めていた。

だけどある日、黒部川と談笑している薬剤師がレジに立つ伊野尾を見て手招きをしたのだ。

この薬剤師は「大杉本(おおすぎもと)」という５０代の男性で、日サロで焼いているのか色黒で筋肉質な体型だ。

白衣を着ていなければ、強面のプロレスラーかと思う風貌だがとても気さくな人で、バイト終わりの伊野尾や他のバイト仲間たちを飲みに誘ってくれたり、普段から気にかけてくれたりと、なんやかんやと面倒見の良い人だ。

大杉本「伊野尾君、ちょっと、ちょっと。」

伊野尾は何だろうと首を傾げながら

伊野尾「は〜い。」

と、少し小走りで大杉本のもとに行く。

大杉本「いやいや。なんかね、黒部川君がね、一緒に飯行こうって。」

伊野尾「は、はぁ～………。」

突然の誘いに生返事をして、上目遣いで黒部川を見上げる。

黒部川「君はこの前ライターを拾ってくれた子だよね。伊野尾君。そのお礼もしないとね。」

伊野尾「えっ？そんなお礼されるような大したことしてないですよっ！」

伊野尾は少し焦って、ブンブンと両手をかざして大きく振る。

黒部川「いや〜、ま〜それだけじゃなくてね。今私が人事も任されていてね。最近の若い子たちの話しが聞きたいんだよ。だから伊野尾君や他の若い子たちも誘いたいんだけど、どうかな？」

ただ立ち話しをしているのに、手振り身振り１つ１つが洗礼された大人の所作。

そして鼻を掠めるのはやはりセブンスターの香り。

普段からタバコを吸わないし、何ならタバコの匂いがどちらかと言うと苦手な伊野尾だが、タバコの匂いを魅力的に感じてしまうから不思議だ。

伊野尾「あっ…バイトの若い子たちみんなってことですよね。」

伊野尾は、少しでも黒部川にとって特別に誘われたのかと勘違いして思い上がってしまった自分に恥ずかしさで胸がゾワゾワするのを必死で抑え込もうとした。

そんな伊野尾を察したのか、黒部川が

黒部川「伊野尾君が良ければ、個人的に誘ってもいいかな？」

なんていうから、伊野尾はますます恥ずかしくなって耳まで真っ赤にしてうつむくしかなかった。

社交辞令かと思われた黒部川の言葉だったが、その後のバイト仲間を誘った大きな飲み会の後、本当に伊野尾をご飯に誘ってくれた。