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あっ…あの〜…　１ページ35

伊野尾と山田と薮、八乙女は診療所ではなく３階の薮達の事務所に移動をした。

黒い合皮のソファに伊野尾が身を屈めて座り、緊張で血の気が引いて白さを増す両手は、膝の上で祈るように組まれている。

向かいの一人掛けのソファには、右側に薮が座り、八乙女がそのソファの肘掛けの部分に薮に寄り添うように座っている。

左側は山田も伊野尾のように前傾に身を屈め、軽く足を開いて座っている。

山田、薮、八乙女は伊野尾の発せられている一言一言を緊張感をもって聞き取る。

伊野尾「何から、話そう……。俺さ……(あ)(の)(日)」

バンッ！！

勢いよく事務所の扉が開かれると、キラッキラな笑顔の男性が両手を高く上げて入って来た。

知念だ。

知念「光〜っ！ここに居たんだ！バット貸して〜！！」

固まる伊野尾、山田、薮、八乙女。

バット？

バットって言った？

なんで？

突然の訪問者はその場の空気なんて関係ないと言わんばかりの勢いと迫力。

思いっきり出鼻を挫かれた伊野尾は呆気に取られてきょとんと知念を見つめる。

薮達３人はため息と共に頭を抱えている。

薮「知念…………」

知念「んっ？依頼人？………って、嘘…………」

愛想よく笑顔を見せていた知念の顔が、伊野尾の顔をひと目見た瞬間に一気に強張る……………

そして、顔を引きつらせ怖ず怖ずと伊野尾に歩み寄る。

山田「ちぃ？どうした？知り合い？」

知念のただならぬ雰囲気に山田がいぶかしげな表情で聞くが、知念は山田の問いに答えることなく、真っ直ぐに伊野尾を見つめたまま、その足を止めることはない。

伊野尾はゆっくり迫りくる知念に困惑しソファの背もたれにへばり付くように身構える。

知念はそんな伊野尾の前に立ち塞がると、ズイッと伊野尾の顔と自分の顔がキスでもできるんじゃないかと思われるほどの距離まで近づいて見つめる。

伊野尾「あっ……あの〜…」

伊野尾は冷や汗を垂らしつつ、ヒクヒクと顔を引き攣らせながら苦笑いを浮かべるしかない。

尚もじっと伊野尾の顔を見つめる知念。

知念「可愛い〜っ！！」

伊野尾「ほぇっ？」

伊野尾を見つめる知念の目が一気にハートマークへと変わり、溢れる思いが歓声となって事務所いっぱいに響き渡る。

伊野尾はズリっとソファからずり落ちそうになる。

山田達はもう目が点だ。