最後の日だから ２ ページ30
薮はその後、何も言わず事務所に戻って行った。
謎の誕生日会というものは、今夜バーで貸切って行われるらしい。
何人来るのかも、誰が来るのかも分からない誕生日会。
始めは「何で関係ない俺が参加なの？！」と、感情をちゃんと表して躊躇っていた伊野尾だが、だんだんどうせもうこれで「最後なんだ。」と変な開き直りを感じる。
八乙女にまで変な心の距離を感じる始末だ。
他人行儀というか…
この３日は夢だったかのように…
覚めてしまえば、それは現実ではなくなる…
八乙女「伊野ちゃん。退院って言っても、退院後１週間ぐらいは安静にしててよ。」
伊野尾「わかったよ。」
入院部屋のベットで服を着替えようとする伊野尾に八乙女が心配そうに語りかけるが、伊野尾は適当な返事をするだけだ。
患者着の紐が解かれ、スルッと患者着が伊野尾の足元に脱ぎ落とされる。
伊野尾の白くて細い背中が露わになり、治りかけの痣や傷が見える。
伊野尾が白いTシャツに手を伸ばした時だった。
背中に程良い重みと温もりを感じる。
伊野尾の胸の前で組まれる手。
八乙女が伊野尾の後ろから抱き着いたのだ。
伊野尾「えっち。」
ボクサーパンツ姿の伊野尾がいたずらっぽく言う。
八乙女「バカっ。こんな伊野ちゃん、ほっとけないよ。」
伊野尾「何言ってんの？たった数日の仲でしょ？すぐ俺のことなんか忘れるって。」
伊野尾はそっと自分の胸の前で組まれている八乙女の手を優しく振り解く。
伊野尾「あっ。今日は無理だけど。入院費とか買ってくれた下着代とかはちゃんと払うから。後で振込先があったら教えて。」
伊野尾は淡々と言うと再びTシャツに手を掛ける。
八乙女「どうやって…………」
八乙女は唇を噛み締めて問う。
伊野尾「聞きたいの？」
伊野尾は今まで見たことのない冷たい目で八乙女を見据える。
そして振り返ると、すぐ後ろに立っていた八乙女に詰め寄る。
八乙女は生気の無い伊野尾に不気味さを感じたじろぐ。
一歩一歩後退る八乙女に、一歩一歩距離を詰める伊野尾。
すぐに壁へと追い込まれ、壁に背が張り付いた八乙女に、伊野尾はそっと八乙女の頬に手を添える。
伊野尾「実践する？光になら特別サービスするよ。」
八乙女「いっ伊野ちゃん…」
上ずった声で何か訴えようとする八乙女の唇を塞ごうと、伊野尾が顔を寄せた時だった。
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作者名：サツキ | 作成日時：2023年11月7日 19時
