素直に ３ ページ28
伊野尾は八乙女の視線を外すように丸椅子から立ち上がる。
伊野尾「ま〜何とかやっていくよ。」
伊野尾が大きく息を吐きながら答える。
八乙女は立ち上がる伊野尾を困ったように眉をハの字にして目で追う。
八乙女「伊野ちゃん……」
伊野尾「もう……。そんな顔しないでよ。」
伊野尾も困ったような泣きそうな笑顔を八乙女に向ける。
伊野尾「光。今日、山田達居るかな？お礼だけはちゃんと言っておきたい。」
伊野尾は話題を変えてその場をしのごうとする。
八乙女「居るよ。んで、今日はみんな来ると思う。」
八乙女は自然と顔がほころぶ。
伊野尾「みんな？」
伊野尾が眉を潜めながら首を傾げる。
八乙女「そっ。今日は11月14日。俺たちの誕生日なんだ。」
伊野尾「誕生日？！ふっ…ふ〜ん…」
ますます八乙女の言葉が理解できず、頭の上に『？』をたくさん浮かべながら、適当な返事をする。
伊野尾「まっ、いいや。誕生日、楽しんで。」
八乙女「あぁ〜。すぐそうやって蚊帳の外感出す。来いよ。」
伊野尾「なんで？！俺には関係ないじゃん。」
伊野尾が困ったように笑いながら答える。
八乙女「おにぎり………ありますよ。」
伊野尾「う゛っ！」
八乙女がいたずらっぽい笑みを浮かべ、勿体ぶった言い方をする。
伊野尾は、ぐらりと心が揺れる。
この入院中、すっかり八乙女の作るおにぎりにハマってしまった伊野尾。
たかがおにぎり。
されどおにぎりだ。
八乙女「味噌汁……ありますよ。」
伊野尾は膝から崩れ落ち、両手を床に付ける。
伊野尾「食べたい………」
八乙女「よろしい(笑)」
勝ち誇った笑みで回転椅子にふんぞり返って座る八乙女と、完敗で八乙女にひれ伏す伊野尾。
薮「何やってんだ？お前ら……」
ちょうどその瞬間に診察室に入ってきた薮。
ものすごくいぶかしげな表情で問い掛ける。
伊野尾「あ…………」
もう熱はないはずなのに、耳まで真っ赤になった伊野尾がそこには居た。
薮は事情を八乙女から聞くと二つ返事で「来いよ。」と言う。
伊野尾の意思とは関係なく、どんどん薮と八乙女の間で伊野尾が参加する方向で話しが進められてしまった。
伊野尾「え……？なんでこうなったんだ？」
伊野尾は頭を朝から抱える。
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作者名：サツキ | 作成日時：2023年11月7日 19時
