素直に 1 ページ26
八乙女「でも、ただ1つ確かなのは、伊野ちゃんが今ここに居る。」
伊野尾「山田が助けてくれたから…………」
八乙女「うん。確かなことを1つ1つ確立していけばいいんじゃない?」
伊野尾「確かなこと………か………」
八乙女「さてっ。お腹空いた!伊野ちゃんは、アレルギーとかある?」
伊野尾「うぅ〜ん。ない。」
八乙女「了解。」
八乙女は右手の人差し指と親指を丸めてオッケーマークを作りながら診察室へと戻って行った。
天井を眺める伊野尾の目尻から一筋の涙が流れる。
伊野尾「俺、まだ人として生きてていいのかな………」
何かを求めるように、すがるように、伊野尾は天井に向けて右手をかざす。
そんなことを考えると、自然に涙が溢れる。
伊野尾はかざした右手を額にあて、誰も居ない部屋で人知れず声をころして肩を震わせた。
そんな伊野尾を八乙女は患者着を胸に抱きしめながら、診察室から壁を背にして、やるせない表情で見守るしかなかった。
八乙女「伊野ちゃん。卵粥作ったよ。食べよ。」
八乙女は患者着を脇に抱え、お盆に水の入ったコップと卵粥と大きめのおにぎり2つとお味噌汁をのせて入院部屋に入って来た。
伊野尾「ありがと。」
八乙女「とりあえず水かな?遅くなってごめんね。」
伊野尾はゆっくりと上半身を起こし、コップを受け取る。
その目に涙の跡はない。
伊野尾はコップの水をこくこくとゆっくり飲み、喉を潤す。
八乙女「お粥、熱いから気をつけてね。」
そして、伊野尾はコップと引き換えに卵粥がよそわれたお茶碗を受け取ろうとするが、伊野尾の目線がおにぎりに向いていることに八乙女は気づく。
八乙女「んっ?伊野ちゃん、おにぎり食べたい?」
伊野尾「えっ?!あっ……いや……そんなっ……」
しどろもどろな伊野尾を見て、八乙女が吹き出す。
八乙女「伊野ちゃん、おにぎり好きなんだね。いいよ。食べれるなら食べて。」
八乙女はお茶碗ではなく、おにぎりが乗ったお皿を伊野尾に差し出す。
伊野尾は熱なのか照れなのか顔を真っ赤にしておにぎりを1つ掴んで一口頬張る。
伊野尾「うぅ〜ん♡」
伊野尾は美味しそうに目を細める。
八乙女「(こんな顔もするんだ…)」
八乙女はおにぎりを頬張る伊野尾を微笑ましく見つめる。
伊野尾「なっ、なんだよ。」
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作者名:サツキ | 作成日時:2023年11月7日 19時