素直じゃない ２ ページ25
診察室から八乙女と誰かの話し声と笑い声が聞こえる。
あと、医療器具同士がカチャカチャとあたる音。
八乙女「じゃ〜、また何か気になることがあったら来てくださいね。」
誰か「おぉ〜！いつものありがとな！」
伊野尾は、しゃがれた声の中年と思われる男性が大きな声で礼を言いながら診察室を出ていく気配を感じる。
伊野尾「(診察してるだ。)」
下がりきらない熱でぼんやした意識の中で状況を察する。
伊野尾「(喉、乾いたなぁ。)」
伊野尾はモゾモゾとゆっくり体を起こし、点滴を吊るす棒を杖代わりにベットから立ち上がろうとした。
が、立ち上がった瞬間、天地が歪む。
自分がどこを向いているのかも分からなくなる。
伊野尾「やべっ………」
と、思った時にはもう体が大きく傾き天井しか見えくなった。
八乙女「伊野ちゃん！？」
伊野尾が床に叩きつけられる間一髪のところで八乙女が伊野尾の体を抱いてクッションになり、一緒に倒れ込む。
八乙女「あっぶねぇ〜。どうしたの？伊野ちゃん。」
八乙女は伊野尾を抱きかかえながら上体を起こし、伊野尾の様子を伺う。
伊野尾「あっ…ごめん。喉、乾いて……」
伊野尾は弱々しい声で、八乙女の胸の中から受け答える。
八乙女「そっか。びっくりしたぁ〜。待ってて。今持ってくるから。あっ！あと、患者着もね。その服、洗ってあげるよ。」
八乙女は伊野尾に怪我が無かったことに眉をハの字にして安堵の笑みを浮かべる。
そして、再び伊野尾の体を支えながらベットに戻してやる。
八乙女「今日はもう午前の診療は終わりだから、お昼ご飯一緒に食べよう。伊野ちゃんは小粥がいいかな？」
八乙女は、掛け布団をかけ直し伊野尾をあやすようにポンポンと叩く。
八乙女「あっ。さっき、山田が来てたよ。でも、伊野ちゃん寝てたから帰った。」
伊野尾「えっ…………」
山田の名前に戸惑いの表情を浮かべる伊野尾。
山田には２回も助けられている。
でも、何故か素直にお礼すら言えない。
そんな伊野尾の意思を汲み取ったのか、八乙女は少しだけ困ったような表情で伊野尾を見る。
八乙女「山田が苦手？」
伊野尾「苦手って………そんな…何も知らないし。」
八乙女「そう。お互い何も知らないんだよね？」
伊野尾「…………」
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作者名：サツキ | 作成日時：2023年11月7日 19時
